Monday, March 28, 2005

神曲法廷

yamada神曲法廷
山田正紀
講談社ノベルス

SF作家として十分名声を得た作家が、本格ミステリーに殴り込みを掛けた構図らしい。基本的には実に器用な人なんだろう、明晰な構成と論理と人物描写がスムーズな川の流れのように最後まで破綻無く、最後の劇的トリックまで一気に読ませてしまう力量には、感服してしまう。

日本の法曹界を舞台に、謎の建築家が設計した「神宮ドーム」という架空の建築での訴訟問題から、不可解な殺人事件が始まる。主人公の佐伯神一郎は、鬱病から復帰したばかりの検事だが、妄想や神憑り的な言霊に苦悶する弱々しい奴である。上司の敏腕検事から、親友でもあるその建築家=藤堂を捜して欲しいと依頼されるが、一向に近づけないまま殺人事件の方にばかり関わってしまう。

主題になるダンテの「神曲」が、ストーリーの2重構造のように反復して、血のにおいと宗教的な暗さを深くさせる。

確かに良くできた小説に違いないが、これが本格推理だと言われると「火曜サスペンス」のシリーズものの様な辛さを感じてしまう。読み物としては秀逸かも知れないし、あっと言わせる結末も用意していてサービス精神も旺盛で許しちゃうけど、なんか物足りないなぁ。

僕の本格推理の原点は、クリスティやエラリー・クイーンにある。勿論、彼女や彼らの作品の中にも破綻したものが無いわけではないが、真摯に推理というものを追い求めた路の過程だと信じることができるし、茶目っ気がある。読者を楽しませるという最大の目的のために、あらゆる手腕や労苦を惜しまないし、トリックに対してストイックなまでに誠実である。

かといって、近年の推理小説がすべてクリスティの亜流では詰まらないのも解っている。建築の設計の世界でもポストモダンから、すべての設計手法を選択する方法しか残されない厳しい状況は始まっている。その中でも新人類と呼ばれる過去に縛られない怖さをしらない若者が現れる。それは個人の感性の世界だったりするけど……。

推理小説の世界を詳しく洞察したところで、自分好みの方向に変わってくれるとも思わないが、また新しい作家が新鮮な題材のストーリーを見せてくれるようにオープンな世界であって欲しいと願うばかりだ。

お奨め度:幻想の世界をダンテの神曲で塗り固めた構築的な意欲作に星3っつ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Friday, March 25, 2005

ハートブレイク・カフェ

lettsハートブレイク・カフェ
ビリー・レッツ 松本剛史:訳
文春文庫

Billie Lettsと言うアメリカの女流作家を覚えておいて欲しい。
ビート・オブ・ハート」で峻烈なデビューを飾った、老齢の大学教授。オクラホマ州のセコイアと言う田舎町を舞台にしたシリーズのもう一つ別の物語とも言える本編では、ベトナム戦争で傷ついた車椅子生活の30代のオーナーが営む小さなカフェを中心に、こころ暖まる人間模様が織り込まれて行く。
多分、人生のある時期に辛い出来事があったとして、豊かな感情の記憶を呼び覚ます小説家だからである。

偏屈な独り者ケイニーのカフェは、ほとんど開店休業状態で、ウェイトレス兼、身の回りの世話役の中年女性モリー・Oと二人で営んでいる。彼女は3人目の夫をガンで亡くし、一粒種の娘ブレンダは歌手を夢見て家出している。そこに現れる流れ者とも言える訳あり女性=ヴィーナが、店頭の客引きを始めることでカフェは突然の繁盛。ヴェトナムから無鉄砲に移住してきたのは良いが仕事も無く、オロオロと彷徨うブーイ・カーン
それぞれに不器用な人生を送ってきたが、このカフェで一緒に仕事をするうちに、迷い悩みながら悲しみも共有することで前向きな人生に目覚めて行く。なんかホームドラマっぽいけど、確実に涙腺のゆるむ小説である。

年齢の所為だけではなく、涙腺ゆるみっぱなしになる経験は沢山ある。
倉本聡のTVドラマの脚本集は、映像も思い出させてヒクヒク状態になるし、灰谷さんの先生ものもうるうるし始めると止まらなくなる。中原中也の詩集は、時々泣きたくなったときの常備薬だし、浜田省吾の歌もひとりドライブ中に聴くと涙で前が見えなくなってとても危ない。

以前アン・タイラーという女流作家を紹介したけど、作風として似通ったところがある。
悩めるアメリカの社会の一断面をリアルに切り取った日常、その中で強く生きようとする女性の感性。確かに、叙情に流される状況は否めないけど、どうにも頼りないのは男社会という結論なのか?

この小説での最大の涙腺ポイントは、ブーイ・カーンの誠実な生き方である。アメリカの底辺で虐げられた生活のなかでも、ささやかな夢を持ち続け、不器用ながら熱心に物事を積み重ねて、社会に受け入れられようと努力する誠実な姿勢。最後にグッとくる落ちがあって、応援した甲斐があったと思わせます。
基本的にハッピーエンド。アメリカ小説の鏡と言える内容です。

日本で言う「おしん」的な苦労話ではなく、もっと根深い社会批判も含めたヒューマニズムを、軽いユーモアに包み込んだ、一頃の山田太一的世界であります。

お奨め度:韓流ドラマにもそろそろ飽きてきた泣き好き主婦にも星4っつ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Thursday, March 03, 2005

ミスティック・リバー

ruheinミスティック・リバー
デニス・ルヘイン/著 加賀山卓朗/訳
ハヤカワ・ミステリ文庫

どうにも切なくなる小説がある。そのやり場のない切なさが尾を引くような物語には、約束の映画化が待っているみたいだ。
今年のアカデミー監督賞を取ったクリント・イーストウッドの前回作が、この小説を原作にしたものだ。日本では今春の公開予定。乗ってるダーティ・ハリーの監督業の映像に期待をしましょう。

子供の頃に心を通わせた3人の男の子。それぞれに環境の違う地域の家庭ぐるみのつきあいも、ある事件をきっかけに静かに崩壊する。その事件は、遊んでいた3人の一人だけを連れ去り、監禁と陵辱の上解放されたこと。気まずい心の傷を背負った子供たちは、それぞれの人生を歩み家庭を築き25年後に同じ町に住んでいる。犯罪歴を持つジミーの娘が殺害され、その捜査を担当することになった刑事のショーンと、陵辱の過去を持つデイブはジミーの家族と近しいつきあいをしているが、心の病気を深めている。
ストーリーは殺人事件を追い求めるサスペンスを主体に流れるが、挿入される3人の男たちの悩める心理スケッチが濃密で、アメリカという社会の微妙に不安定な社会環境を映し出して、やはりやり切れない感じを醸している。

誰の記憶にもあるもので、仲の良かった少年時の友達が歳を取るごとに疎遠になって、今は行方も知れなかったり、たまの同窓会で顔を合わせても会話ができなかったりすること。大人になると群れを作ることに億劫になったりするけれど、あの頃の無闇にじゃれ合ってた楽しさはもう取り戻せないのかと思うと寂しくなる。家庭環境や貧困を越えてつき合えてたピュアな時代には……。

映画を観てから原作を読むか? どうかは個人のご趣味でお構いなしだが、是非原作だけは読んで欲しい傑作だと思う。

お奨め度:日本にも「泥の川」という純文学があったなあと思わせるので星4っつ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Wednesday, March 02, 2005

QED 六歌仙の暗号

QED 六歌仙の暗号
高田崇史 講談社ノベルス

QED【quod erat demonstrandum】=証明完了ってことらしい。謎がすべて解けた時に、金田一少年なら「じっちゃんの名に賭けて!」と言う決め文句に近いものかな? でも実際には小説内に一カ所しか出てこない意味不明なラテン語ではありました。残念。

第9回メフィスト賞を取ったのは前作「百人一首の呪」なのですが、読みやすいのはこっちの方なので先に紹介します。
高田氏は昭和33年生まれの薬科大学卒の作家です。本職は薬剤師?なのでしょうか、探偵役の主人公:桑原祟も漢方に詳しい薬剤師という設定です。同じ大学の後輩、棚旗奈々と同級のジャーナリスト小松崎良平の3人が、なぜか?和歌に関わる連続殺人事件に挑みます。加えて、小松崎のおじさんが警視庁の刑事という見事な設定。なんか無理があるけど?っと首を傾げつつ読み進めて行きます。

「六歌仙…」では、先に「七福神」という言葉がキーワードで殺人が起きますが、これも唐突に「六歌仙」に繋がって行きます。事件自体も変哲ないし、辛いなぁ…などと言いつつ又読み進めます。
さあここからが蘊蓄のオンパレード七福神は怨霊の集まりだったに始まり、平安時代の晴明をを始めとする陰陽道の世界から、六歌仙の元になる「古今和歌集」の編纂に携わった紀貫之の政治観など、こりゃあ凄い参考文献量であります。
しかも無理矢理のこじつけめいた軽さはなく、ぐっと胃に応える内容で、「そうだったんだ!」などと納得のうえに納得の世界になります。
先の「百人一首…」では、札をジグソーパズルみたいに分類・並び替えの上に曼陀羅に関連づけた荒技に、読む方が疲れてしまいますが、今回の七福神と六歌仙の関係式は、新解釈として学会もの?
なにはともあれ力作で、労作です。
人間描写も殺人の動機も薄いのも許しちゃいます。よく調べたで賞っていう賞があれば、満場一致。蘊蓄万歳!のロジック小説です。たとえば梅原猛の卑弥呼ものが、とても胡散臭くても読み物として上等なように、推理小説の一分野と考えれば、QEDってことなんです。

お奨め度:漠然と和歌集なるものを暢気に詠んでいた文人きどりに星4っつ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Wednesday, February 02, 2005

ジョーカー(旧約探偵神話)

ジョーカー(旧約探偵神話)
清涼院流水 著:講談社ノベルス

ここの所ノベルスばかり読んでいる? ハヤカワの海外ノベルスも一度期にはまったけど、こいつもなかなか抜け出せない。ついつい驚異的に分厚いこの本を選んだばかりに、返却日を2週間も過ぎてしまった。分厚いうえに難解極まりない内容だった。清涼院氏ものは気をつけてください

ペンネームもふざけてる?って思うほどユニークだけど(清涼飲料水?)ストーリーもプロットも複雑で迷宮状態です。自覚の上でやってるんだからタチも悪い。読者は翻弄されながら彼の術中にはまって行きます。
若くしてメフィスト賞を得た前作「コズミック」のシリーズ第2作。前作同様と言うことらしいが、沢山の探偵が出てきます。JDC(日本探偵倶楽部)なる絶大な信頼を持った架空の団体が存在するのが訳もなく面白い。次から次に個別の推理方法を持った個性的な探偵が出てきて、最後は事件現場に10人も揃ってなんとも盛観です。結果的に最初の登場人物である推理作家たちの殆どが殺害されるという連続殺人事件。これだけ話しても、投げ出したくなるくらい饒舌な内容です。
勿論最後まで何一つ解決の糸口が読者には見えません。だから2時間ドラマなみに最後までつき合ってしまいます。これも作者の意図、映像や漫画にかわる推理ドラマなんです。まいった。

でもこれ一冊読むだけで、推理マニアの専門用語が勉強できます。トリックや推理ロジックの解析方法まで網羅されて辞書みたいです。その中で難解なのが、アナグラム(綴り換え読み)、ミッシングリング(隠された人間関係)、ミスディレクション(誤った方向に導く暗号)等。なるほどと感心しながら、こんなこと考えながら小説を読むのは疲れるなぁと正直思います。
ある意味で本格推理は、作者と読者との勝ち負けのゲームとも言えます。漫然と読んではいけないものらしい。エラリー・クイーンなんかはその冴えたるもの、とっても読者に挑戦的です。坂口安吾あたりもゲームとして意識した推理小説を懸賞金付きで発表したとか?
でもあまりに難解なゲームは、RGPものみたいに結論が変わって思える。実際、この本も最後では……。

クロスワードパズル系の好きなひとには、堪らないかもしれません。残り少ない余生の身の上には、もっとあっさり楽しませてよ、単純に笑わせたり泣かせたりしてよ!と願わずには居られません。かしこ。

お奨め度:語呂合わせや回文の好きなひとにも星4っつ。(暇な時に)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Monday, January 31, 2005

プルートウ

sh0024プルートウ
浦沢直樹+手塚治虫 著 小学館ビッグコミックス

漫画界で今いちばんの話題をさらってる、鉄腕アトム「地上最大のロボット」のリメイクである。あの浦沢直樹が何を思ったか、恐れを知らず手塚治虫への追悼歌に手を染めた。企画ものの極みのうえ、間違いなくベストセラー記録を塗り替えるだろうこのシリーズ。しばらくは静観したい気分で居たが、娘が正月の小遣いで買ってきてしまった。うーむ。仕方がないので、買い取ってやった。最近は娘にも心を読まれている。

僕の世代は、この原作をリアルタイムに味わっている。毎週の発行日には小学校はその話題で騒然としていた。少年サンデーだったんだろうか? 漫画本を買う小遣いも無かった僕は、数週間遅れで友人からの回し読みの恩恵に服した。アトム人気も翳りを見せた頃で、サイボーグ009に押されてるときに、突然の快挙だった気がする。いつになくアトム中心の話でなく、世界の最強ロボットと言われている多様なロボットがその強さを競い合う。ちょっとヒューマニズムぽい少年漫画を超えたような感動もあった。100万馬力のアトムより何十倍も大きくて1000万馬力を超えるクラスのしかも格好いいロボットが次々に現れて、おいおいアトムって駄目じゃないの?と思わせた。はっきり主人公を食ってしまってた
少年の記憶とはそんなもんです。

さて、手塚真が監修に当たった「プルートウ」第1巻。さすがにただの焼き直しではなさそうだ。いきなり陰湿なイントロで導入するし、サスペンスモードで展開する。こりゃ全くの別のお話になってるんじゃないの? まるっきし人間の姿形のロボット刑事:ゲジヒトは原作にアレンジし過ぎ? 疑問符だらけの新展開にそれでも、嵌り込んでます。これはやはり浦沢ワールド、してやったりでしょうか?
題名「プルートウ」はアトムが最強ロボットを賭けて最後に戦う、巨大な凶刃ロボットの名前だったと思います。そこに向けて、ストーリーは加速的に収束してゆくはずですが、このペースでは30巻以上の分量になりそうです。気長に楽しみましょう。

初刊配本時に限り、豪華企画本が同時発売されています。手塚治虫の原作も完全収録、ビッグコミックオリジナル掲載時のカラーやサイズを再現、保存用の装丁に手塚真との対談も収録。税込み1,800円也。安いか高いかは、書店で悩みましょう。個人的には超欲しい。

さて浦沢先生もお忙しい。「20世紀少年」も第2部に入ってるし、映画化の話もあり得そうだ。本当? もう充分儲かってるんだから、好きな仕事をのんびりやっても良さそうなものです。勿論、読者は放っておいてはくれませんが……。

お奨め度:まだ一巻しか出ていないけど心がはやるひとに星飛ゅ馬?

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Wednesday, January 26, 2005

ハサミ男

sh0023ハサミ男
殊能将之 著:講談社ノベルス

第13回メフィスト賞受賞作であります。ミステリー界の歴史ある賞を取っただけあって読み応えというか、ラストの斬新さに感心してしまいます。ただミステリーとして成り立っているかどうかは、クリスティの「やっちゃいました」反則ものと同じくらいに不可解ではあります。でも、しっかり読ませてしまうから作家として巧みかも。
洋ものの音楽に詳しくないので詰まらないのは、このハサミ男(シザーマン)がXTCという音楽グループの楽曲から発想されたこと。ロック系らしいけど、サッパリです。

お話は最初からハサミ男の独白で始まります。残虐な犯行を綿密な計画で楽しむ連続殺人犯としてのハサミ男。その平凡なアルバイターとしての日常と狂気が淡々と描かれてゆくはずが、あろう事か自分の犯行を真似た殺人現場に遭遇してしまいます。
わぉー予想外の展開。あたふたと戸惑うハサミ男と読者である僕。
現場の第一発見者であり本当のハサミ男である「ハサミ男」は、ついにその偽ハサミ男を突き止めるべく活動を始めます。妙に憎めない奴です。
これ以上ネタを語ると大いなるトリックの楽しみがなくなるので、是非ご一読を!

もう一つの視線として、刑事の磯部の捜査活動が地道でいい味を出してます。上司で切れ者の上井田警部や本庁からのキャリア、犯罪心理分析官:村木も相まって、左往右往してなかなかハサミ男にたどりつきません。第一発見者が怪しいというところまで行って、裏がとれない状況が続きます。どちらかというと心理サスペンスもの?

読みにくいペンネームの殊能氏。才能は十分みたいなのですが、筆は遅いみたいです。次回作が読んでみたいのに今のところ、文庫系ではないみたい。ハサミ男の次回作ってのも、プレッシャーがきついかもしれません。

お奨め度:この感想文で消化不良を起こしそうな本の虫に星4っつ。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

Sunday, January 23, 2005

玄い女神

玄い女神(くろいめがみ)
(建築探偵桜井京介の事件簿)
篠田真由美 著 講談社ノベルス

建築探偵という言葉にグラッと来て読んでしまいました。著者は早稲田大学の文学部卒、年代は僕より少し上なので、遅咲きの推理小説家であります。東洋文化を専攻したと言うこともあってこの本ではインドの衒学的な知識満載です。でも何故、建築探偵?

前提として愛すべき探偵役の桜井京介は、W大学文学部の院生なのに教授の研究室をほぼ独占している変わり者。古い建築とその歴史的背景に興味があって現地実測を生業とするというふれ込み。著者の後書きによると、館がらみの推理小説が個人的に好きでこんな無茶な設定になってるところもあるらしい。
まあ結局その館がらみで、お約束の殺人事件が起こるわけです。
しかも頭から京介は、名探偵としても有名だったりするらしいから凄い。その上、長髪とサングラスに隠された美貌の持ち主。不登校高校生の蒼(あおい)くんと京介の同級生だけど巨体で行動力のある栗山深春の3人トリオ。三銃士?ってこと。この探偵トリオの素性は謎の部分が多い。楽しみな部分として後のシリーズに残しているんでしょう。
「玄い女神」はシリーズ2作目です。1作目は、「未明の家」という題でスペイン帰りの御曹司が建てた謎の別荘が舞台。別に建築的にトリックが使われるわけでもなく、外観様式も平面もアバウトで小説は成り立ってるのが残念。許せるのは、建築用語に誤りが無いこと。有名処の建築家も押さえてますし、さすが早稲田卒、周りに良きアドバイザーがいるのでしょう、そつがない。やはり昭和20年代生まれ、きっちり仕事してます。

本格推理のお墨付きをもらっただけあって、文章もプロットにも破綻があまりありません。最後に唸らせるのは、登場人物の名前にこっそりロジックを混ぜてること。細かいところに拘ってます
それにしても時代設定が古すぎるかな? しろうと劇団のメンバーに起きた10年前の事件の精算という暗いストーリーも時代錯誤かも。その集会に中学生の京介も出入りしていた等と、どんな増せた中学生や! 学生運動の時代か! とツッコミを入れたくなります。
種明かしのトリックは冴えませんが、犯人の心理描写が巧くてこれも許せます。そう言うのを本格推理って言うの? 最近の本格ものには、何重にもトリック崩しがあって複雑で難解なものが多いのですが、この人のは流れが素直でTVの2時間ドラマみたいに読みやすい。分類はよく理解できませんけど、シリーズを読んでみたくなるには違いない。実際、3人トリオの出生が気になって仕方ないのです。

お薦め度:裏読みの本格推理に興味のある人に星4っつ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Monday, January 17, 2005

小住宅の構造

ike019小住宅の構造
池田昌弘 著
A.D.A.EDITA tokyo 発行 2,200円+消費税

また建築構造関係の本になっちゃいました。

実は現代の建築界の様子を語るのに、構造関係の絡みを無視できない状況があるのです。今はやりのデザイナーものは、多かれ少なかれ新しい構造解析の洗礼を受けざるを得なかったみたいです。
その先駆者が前出の佐々木睦朗氏ですし、協同者であり木村設計の同部屋弟子である池田昌弘もまた、時代のトリックスターとして脚光をあびるひとりです。

多分、日本の建築界でも設計者として意匠設計者と連名で作品を発表したのは彼が初めてでしょう。最初はコラボレーションと称していましたが、この本では「インテグレーション(統合)」という職能として語っています。まさに施工環境まで含めて建築を構築するためには不可避な存在になりつつあります。構造屋さんと呼べない、特殊な技術職人であり優れたデザイナーでもあるのです。
(実際最近は、自分の裁量のもとでチームを組み有名意匠設計者抜きで、作品を発表しはじめました。)

この本は、題名のとおり彼が独立してから介在した、数々の小住宅作品を丁寧に解説しています。入江経一との軽快な造型、手塚夫婦とのシンプルなボックス住宅、米田明とは真っ白な内部空間に見事な螺旋階段を浮かべて見せました。今新しい建設システムでもブレイクしている山下保博とは、工事費まで関与した大胆な構造システムを提案、完成させてしまってます。

特にこの本では図面を省き、針金で組んだだけの構造モデルをひとつひとつ提示してあります。これは構造を、網状の線形でとらえる彼の思考がよく現れていると思えます。建物に流れる血液のような応力が、緩やかに全体に拡散して軽やかに保っているそんな建物です。
法的に緩い小住宅だからこそできる、わけではありません。
建設予算から類推しても、設計料なんて知れたものです。作業量の何分の一かの費用で、こんな複雑でフィードバックの多い構造解析を何故してしまうのか? やはり、拘りとプライドと社会貢献への努力以外にないのです。

これからの住環境も含めて、再利用や環境問題、新しい価値観の創出を推し進めてゆくには、こういった構造関係の試みが必要です。
もしかするとそれは、河豚を食わずして死ねるかと言った先駆者の心意気に比べるべくもないことなんでしょう。

最近の構造計画の指向性は、構造体と仕上げという区分けを一旦はずして、仕上げの部材も構造の要素と考え、無駄のない建材を流用する。しかもそれが、単純な構造要素を消し去ってしまって非常に細くて軽快な建物を創出できる点です。
実際に見た目には危なげなバランスの建物、でも明快で微細な計算がされているその空間には、普段にはない緊張感が感じられます。決して住みやすい=住み慣れて懐かしいと言った空間ではありませんが、非常にドラマ性と開放感を内在していて、都市型住宅としてひとつのプロトタイプに成り得るものです。

中でも面白いのは、町屋プロジェクトなるものです。親戚同士が所有する土地に3棟の戸建て住宅を3人の建築家が設計する。3者3様の設計スタンスに構造家兼マネジメントとして介在し、コストコントロールまで含めた自然な町屋集合住宅の在り方を、追求しています。
土の上ではそれぞれのボリュームが主張しあい、牽制しあっていますが、土の下では基礎構造を共有しているといった、なんか微妙に微笑ましい関係で成り立っています。珍しい建設のありかただったのだと思います。

こういった意匠設計者+構造設計者+施工者がチームワークを組んだ建設は、21世紀の主な建築システムとして構築されてゆくと考えられます。そのときに、それぞれがお互いの立場や意向を理解し合える関係であるためにも、日々の勉強や研鑽は必要なことなのです。

お薦め度:あれっ構造屋さんて格好いいなぁ!と思い始めた人に星4っつ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Sunday, January 16, 2005

構造設計の手法

sasa020構造設計の手法(住宅からスーパーシェッズまで)
佐々木睦朗 著

住まいの図書館出版局 発行 2,300円+消費税

住まい学大系シリーズなる掌中本、こんな本売れてるの? と思うが、珍しく構造設計のスーパースター佐々木さんの著書なので買ってしまった。僕と同じような、構造に弱いがその理念に憧れる設計屋がついつい買ってしまう本なんでしょうか?
素人さん向けの内容ではないのですが、20世紀から現在に至る構造デザインの体系的な流れがとても分かりやすく書かれています。文章も晦渋ではなく、とても優しい。佐々木さんの人柄の現れた名著だと思います。

伊藤豊雄との合作「仙台メディアテーク」で、その突出した才能が世間に認知(設計界だけ?)されましたが、すでにそれまで数多くの独創的な構造デザインを有名建築家と共に実作しているこの世界では大家のひとりです。
木村俊彦という構造の第一人者の落とし子のなかでは、一番弟子なのかな? 若手の設計屋とも協同する腰の低い人という印象があります。今でこそ当たり前になりつつある? 小住宅規模での構造デザインの先駆者でもあります。1946年生まれ、還暦近い老体と思われない精力的な活動を今も続けています。

意匠設計屋と構造設計の関係にふれると、今でも主従の様相を免れない。雑誌の発表にしても構造担当として列記されることも希ですし、社会的な認知度も低いのは残念なことです。
今を時めく、妹島和世はもとより世界の安藤忠雄にしても有能な構造設計家なしでは為しえなかった秀作がいくつもある。構造設計がその陰の存在から頻繁に脚光を浴びるのは、本当にここ最近のことでしかない。

佐々木さんの独創性は、構造解析の方法を命名するのが巧いところだ。
30㎝角の柱梁で組み上げるRC(コンクリート)造を小枝工法、鉄骨の柱とブレース(筋交い)の複合体を偏心ブレース構造、その他にパイプオルガン構造とか今ではメジャーになった鉄板溶接サンドイッチ床構造など、枚挙にいとまがない。そのどれもが僕らの学生時代には習うことも無かった実験的な工法で、その細い柱や薄い床厚を見るに付け、高層ビルの仮設足場に上にいるようなゾクゾクする感覚がある。不思議に?ここの処の地震や台風の自然災害にも一応耐え抜いているようで、やっぱ凄い構造屋さんなんだと改めて思った。

その独創性も、コンピューターに依る計算速度の向上が寄与しているのは事実だとして、要は意匠屋が勝手気ままに引いてしまった立体デザインを、感覚的に「いけるだろう!」と判断してしまえるのは、選ばれた才能に違いないのです。

長年のつきあいをしている難波和彦氏との対談で、小規模鉄骨のファブリケーター(鉄骨製作工場)の話題がでる。

「複雑なことをむしろ面白がって一緒に頑張ってくれるようになれば、少しずつ可能性(町工場の技術向上)はひろがって行く。設計でも同じ事が言えるんだけど、ただラインで機械的に仕事をやるのではなく、物をつくる喜びを味わって、次のプロジェクトに向かってさらに意欲的になっていける。そういう自己啓発というか、自分たちの物づくりとして力をより伸ばしていくことを喜びに感じるような、そんなチームづくりが大切だと思う……。」

耳に痛い提言ですよね。
僕ら設計者はやはり、いつも何処かで社会構造に対してアクションを起こすべきなんです。どんな些細なことでも諦めないでコツコツと……。多分これからは特に、僕ら地方のいち建築屋の存在意義はそう言うことに収束してゆくに違いないのだから。

お薦め度:格好良さだけで建築デザイナーをめざす若きひとに警鐘として星4っつ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Friday, January 14, 2005

500万で家をつくろうと思った。

500017500万で家をつくろうと思った。
鈴木隆之・藤井誠二 共著
株式会社アートン発行 1,500円+消費税

東京激安的住宅」と銘打った1件のローコスト住宅の顛末記です。
設計者:鈴木隆之は同姓同音名の有名な建築家とは別人物であるが、建築家としての素性も京大卒のうえに原広司のアトリエ・ファイを出ている優良児だし、なんと言っても群像新人文学賞をとったバリバリの小説家でもあります。本業はどっち?という今時つまらない憶測はやめて、マルチな才能を持つ人が建築の分野にも現れたと喜ぶべきなのでしょう。
お施主は共著の藤井誠二。この人もノンフィクションのライターという職能を持つ文化人。フリーランスという類型を抜けられず、世間は建設資金を出し惜しむという哀しい現実に直面します。土地費込みで1,500万の総資金で家は建つのか? 緊張の連続。

土地は定期借地権で10坪弱、設計料や建設以外の諸経費を引くと上限500万という目標値ができてしまった。丁度20年ほど前に「ハウス500プロジェクト」なるものが有ったのだが、泣かず飛ばずで終焉した記憶がある。実際、20年前でも500万で出来る住宅なんてイナバの物置並に素っ気なかったし、みすぼらしくて誰も買わなかった。それほど、現実離れした数字です。
普通の発想やシステムではとても解決できません。それは明白。

結局、セミ・セルフビルドの実験的手法と極限のシンプルな素材と生活様式の選択へと向かいます。それは反則だよ!と誰もが思うでしょうが、彼らは悩みの縁で苦渋の選択をし、それを楽しむという暴挙にでるのです。うーむ、ノンフィクションそのもの。
ほぼ総二階建ての33㎡、10坪の床面積。1階が土間コンクリートのLDKスペースに極省?水回り。2階は寝室兼プライベート空間でなんと床は仮設足場鋼板。それでも屋上に昇る鳩小屋(ガラス貼り)の美味しいおまけがあったりして、結構ひとり暮らしには贅沢。
法的な問題もあって、鉄骨のALCとガラスだけの建物になってとてもミニマルなインゴット風に仕上がってます。お見事。
巻末の工事費資料を読み解くと分かるのですが、細々した雑工事と大工工事は日給計算で現場管理も含めてひとりの専門家に任せています。気持ちの良い職人さんが居るものです。勿論、作業の頭数が足らない分は、設計者が講師を勤める大学の学生や知り合いの設計事務所の有志、勿論お施主さんも交えて弁当代だけで素人作業をしてもらってます。
所謂、人海戦術という反則技。致し方無いことであります。
僕は許しましょう。他人の好意に甘えると言うことの代償や後ろめたさや云々も含めて、それも大変なことなんです。
そう、家を建てると言うことは重労働で精神的にもボロボロになるものなんです。

鈴木隆之氏曰く
今の社会では、無意識のもとに根ざしている住宅という商品に対する幻想が存在する。
その現状を認識した上で……

「システム全体を変えることは不可能でも、そのシステムから逃れる試みを個別にしてゆくことは、できるはず……(中略)施主にしてみても、世の中の幻想に惑わされず、自分の生活感にしっかりとあった住宅を手に入れられる可能性が出てくる。このような個別の小さな試みから、やがてはシステムの変革に……(中略)正直言って、僕は建築業界が大きく変わっていくことなんか、ほとんど期待していません。(中略)ただ僕自身としては、機会ある限りこの個別の戦いを続けて行きたいと考えています。」

ひとりの建築家としての指向性が示されて、気持ちが良い。こんなスタンスで仕事ができたら楽しいに違いない。
実際、完成品は普通の感性で考えれば「住みやすい家」では到底あり得ません。でも、その作られて行く過程での紆余曲折を思い描ければ、やはり掛け替えのない「我が家」なのです。多少の雨漏りがあっても、苦笑いで済ませられるほどの「商品ではない建築」でもあります。住む人と建てる人達の感性が共有体験できれば、自前建築は可能なのを証明してくれました。

お薦め度:お金はないけど家は欲しいひとに、甘えではない社会性を育くむことを推奨しながら星4っつ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Sunday, January 09, 2005

建築ツウへの道

tuu021建築ツウへの道:大島健二
(株)エクスナレッジ出版

あけまして、おめでとうございます。
多分今年もマイペースで、ブログを楽しみましょう。

建築評論本は値が張ります。もっと普通の人に読まれるためにも、半値または文庫化を望みます。本の流通の魑魅魍魎化した煩雑さに「もの申したい」。
建築知識」という雑誌から生み出された建築家・大島健二は、前作「建てずに死ねるか!建築家住宅」で文章家として開花しました。大した読書家であり、クリアな見識の持ち主でもあります。
この企画本では、100の章を読めば「あなたも建築ツウ!」という大胆な内容です。現在の建築界をその歴史上の文脈の上でも、斬って斬りまくる「ギター侍?」並です。お見事。

一番の効能?は、現在の日本文化を支えてる経済効果としての海外文化圏の影響を、的確に把握できること。実に「躍らされている日本人」を自覚できます。情けない。
とは言え、日本を代表する指折りの建築家たちも、とにかく頑張ってます。
髪型を変えない安藤忠雄」や「妹島和世とがっかり建築」などと揶揄されても、きっちり自分の領分と仕事をこなして見せます。日本人は律儀です。

95番目の「衣食住役(えき)」を課すという命題?が美味しい。
「衣」において呆けた若者の衣服に関する慢性化された浪費の現況。「食」における一億「あるある大辞典」依存症化した健康志向と経済効果。「住」に到ってはマスメディアに煽られた民意と称する体系に振り回される建築法規や建築需要。
今こそ「役」の必要な時ではないか? 小学校で丸一年を「生きるための実際の知識」の為の授業に当て、建築を作る職人教育や耕作や家畜の飼育、採れた肉や野菜で調理もする。実践的な生活を「役」として義務化するしかない! という無茶だけど、何故か説得力のある内容です。

大島くんはまだ30代なのによく分かってます。今後の活躍を期待しましょう!

お薦め度:なんか嫌な時代だなぁとお思いの諸氏に星4っつ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Thursday, December 23, 2004

ガラパゴスの箱船

ガラパゴスの箱船:カート・ヴァネガット
早川書房:浅倉久志訳

アメリカ文学の良心」と褒めそやされる存在、ヴァネガットの登場です。
如何せん老齢の為、新作が無い。旧作も廃刊の危機に瀕していて、なかなかお目に掛かれない作家です。図書館の方が見つけやすいかも……。
出版はほとんどが早川書房、和田誠のイラストカバーでとても似合ってます。

インディアナポリス出身のドイツ系移民3世とご自身が宣うように、斜に構えた劣等感の塊のような人格の主人公がSFチックなドタバタ喜劇を演じるお話ばかり。
ウイット?またはアイロニー?に粉飾された諧謔的な文学は、なんか奥が深そうで読み解きに難あり故、普通の日本人には人気が無いのは仕方ない。
つい「ウディ・アレン」の珍獣めいた広告を思い浮かべてしまうのは、ただのアメリカ文化のスタイルとしての看板扱い?を受けてるような哀しい状況です。

最近の作品には、落ち着いた社会批判の面が強くなって映画化は難しいが、とても重たい文学になってます。脱稿に3年あまりを費やしたというこの「ガラパゴス……」は、日本人夫婦が何故か出てきて、人類最後の楽園を静かに過ごします。実際、日本にはゾウシの深い人ですので嬉しいですね。

スローターハウス5」は1972に映画化。「母なる夜」も1996に映画化。観てみたい気もしますが、ストーリー的にどうなんだろ? 散文的な文学なので成り立ってるのだろうか?
作中人物「キルゴア・トラウト」というSF作家だけは、映像として観てみたいけど……。
他に「パームサンデー」「モンキーハウスへようこそ」「スラップスティック」「ホーカス。ポーカス」と沢山、珠玉の本土アメリカではベストセラーものがあります。
軽いタッチのものから、チャレンジしてみてください。

So it goes。(そう言うもんだ!)という、文末の決め文句が堪らないと思えればめっけ物です。基本的な姿勢はSF作家ですが、実は社会派きまじめ作家なんだと分かります。と言って構えて読んでも「肩すかし」ばかりなので、最初は4コマ漫画を読み飛ばす気分で臨みましょう。

お薦め度:ヘミングウエィに継ぐアメリカの文学を味わいたい人に、星4っつ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Saturday, November 27, 2004

「超」整理法

「超」整理法:野口悠紀雄
中公新書

副題に「情報検索と発想の新システム」とあるように所謂、情報整理のハウツー本ですし確かその当時(1990年頃)のベストセラーです。
この人の経歴がすごい。東大の工学部を出て大蔵省に入庁、10年足らずで退職して米国はイェール大学の経営学に転身。出版当時は一橋大学教授職だったという、元気なひとです。
バブリーな時代の産物とは言え、「24時間働きたい」と本気で思ってた人種には、目の覚めるような「副音書」だったと思います。
野口さんはその当時にすれば「メカ」にも強く、デジタルメディアにも詳しかったのですが、残念ながらDOS時代の簡易なデータベースとワープロ程度の利用に留まってます。

それでもやはり画期的だったのは、川喜多博士のKJ法や梅棹忠夫の「こざね法」などの情報カード整理法に代わる、封筒ぶっこみ押し出し整理法だったことです。
これは時間順にものを列べることで人の記憶と必要情報の選別を同時に行うという、横着者には本当に有り難い教本でもあったのです。
実際、理に適ってると思うのは蔵書にせよ仕事のデータにせよ、分類して整頓するスペースがまず実質的に無いことや、捨てる理由を自分自身に納得させるには明確な「もう数年使わなかった」という事実が必要だったってことです。
勿論その結果、安易に捨ててしまった大切な思い出の本も有ったりして、悔やんでることも多々ありますけど……。

野口さんの場合、自分の生活で実践して、活用し修練した方法なので、そう言った説得力があったのでしょう。
難点は、角2の封筒がとにかく沢山必要なこと。ついついカタログや関連会社の封筒を流用してしまって、見た目が悪く保存が難しくなるという経験をします。
とにかく斬新にも「割り切った」発想法の良い見本です。一読の価値有りです。
続編が沢山出ていますので、フィーリングの合った人は読み進めても面白いですが、そもそも乱読や積ん読しか出来ない性格の僕には、高尚すぎてお手上げです。
基本的に24時間働けないし、働く気のない御仁には無用の知識です。

最近は電子ファイリングの技術というか、ハードとソフトが進んでしまって、もっと楽にお金さえ有れば整理出来てしまいます。DVDに百科事典や辞書が100冊近く収容できていまって、数秒で検索できてしまう時代なんですから……。べつに、ファイリングをしなくても必要な情報も知識も、漢字の用字さえインターネットで分かってしまうと、自宅に蔵書は要らないかとも思ってしまいます。
書斎が欲しいと宣うおやじには、辛い時代になりました。

お薦め度:将来は書斎という別宅を持ちたいお父さんに星4っつ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

バガボンド

バガボンド:井上雅彦
講談社モーニングKCコミックス

言うに事欠いてのパート2。何しろこの分野の抽斗は沢山あるもので、済みません。
スラムダンク」で一躍人気作家に上り詰めた漫画家、井上雅彦の超長編漫画です。一体この人の拘りは、どこに底を見いだすのだろうか? 想像に難い、その素質と才能と神掛った技術にも……。
「スラムダンク」の頃から、バスケットの一試合にコミックス3巻は優に使った伝説の、長饒舌ストーリーは、今回も固持されています。

資生堂のUNOのCMでの、パフォーマンスでお茶の間にもお馴染みになりました。
筆のタッチの巧さは、最近の漫画家では珍しい「図太い」劇画調の王道でしょう。
勿論、Gペンの繊細なタッチも玩味してみるべき物があります。
恥ずかしながら、最初のころ僕は「バカボン・ド」と読んでた記録があります。
作者の狙いか? と言う感もありですが、実際は「放浪者・ならず者」などの意味でも英語らしい。納得ですか?

吉川英治の「宮本武蔵」をストーリーの軸にはしているが、その奔放な想像力が新しい宮本武蔵像と佐々木小次郎像を造り出して、とても新鮮です。
発刊後にブームが来て、NHKで大河ドラマになりましたが、あんまり迫力がなさ過ぎるので途中で他の番組に変えちゃいました。バガボンドの印象が強すぎるわけで、俳優に文句があるわけではありません。あしからず。

確かに、井上版の武蔵も小次郎もちょっと薄気味悪いくらいストイックですね。
人間の領域を逸脱?超越してる? 武士道というのはじつはこういう物?という反面教師なのかも知れない。逆に臆病者でこすい「又八」という人物が、とても人間っぽく身近に感じます。おいおい、しっかりのめり込んでるぞ!

残念ながら、現在20巻目でモーニング誌休載中とのこと。いつ始まるやら、期待ばかり。スラムダンクの終わり方も呆気なかったので、ちょっと不安になります。並行して「リアル」というちょっと捻ったスポーツものも楽しみにしてますが、本当に筆の乗りの悪い人なので、気長に待つしかありませんね。

漫画というメディアが歴史書も改革してしまう時代が、いつか来るような気がします。
横山光輝が「三国志」を描いたのは随分昔の話なのに、その頃は想像も出来なかった状況が急速に現実的になっています。絵を描くだけではないマルチな才能の人たちが、漫画の世界に活路を求めて居るんでしょうか? 言葉が錬金術と思われてた時代は過ぎ、これからは映像と音楽の時代になって行くんだろうか?
少し寂しくもあるけれど、老眼に傾いて行く世代としては反面、喜ぶべきことなのかも……。

お薦め度:桜木花道が懐かしい人に、星4っつ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Sunday, November 21, 2004

モンスター

モンスター:浦沢直樹
ビッグコミックス 全18巻

まずい。言うに事欠いて、ついに漫画本の紹介だ。でも、避けては通れない。何しろ「大好物」だから。

浦沢直樹と言えば、柔道の「柔ちゃん」の原典になった「YAWARA!」が有名な人気漫画家です。その他に「HAPPY!」とか「パイナップルARMY」もあるけど、少年漫画から吹っ切れたのはやっぱこれ!かな。
とにかく絵がうまいひとなので、ストーリーが嵌ればこんなに面白いものが出来るんだと言う見本です。
もうひとつドクターもので「MASTERキートン」もあって混同してしまうかも、これもほのぼの系で良いけど……。

サスペンスの極致といえる北欧を舞台にしたこの異色の長編は、主人公の「Dr.テンマ」が.巻き込まれて行く不可思議な歴史の検証? 犯罪心理の深層? いや何にも勝る「ヒューマンストーリー」です。
主役を食っちゃう配役が良い。謎の美形の双子の少女と少年、テンマを追うしつこい刑事、フィアンセだった小憎らしい医院の娘。どれも個性的です。その後も現れる重要人物も、最後にはうわーと思わせる人間性を見せて、泣かせます。あまり詳しく話すとサスペンスの美味しい処を無為にしちゃうので……。
それにしても、Dr.テンマは格好良すぎるか?
一般の漫画本によくあるストーリーの破綻が無いのが、唸らせます。計算された伏線と幕間に挿入される「心温まるショートストーリー」もあり、複雑に人間関係が絡んで最後まで、どこへ行っちゃうんだろう?という不安感と期待感で満たされます。
読後は、間違いなく「放心状態」。いろんな意味でですが……。

この後、並行して書いていた「20世紀少年」も今、第二部に突入しましたが、これも最高にイケテル。昭和30年代の記憶が妙に伏線になってるので、僕の世代には「大阪万博」とかが懐かしく思い出されます。これも、サスペンスもの。一体どこに連れていってくれるんだろうか?
もしかして、これってベストセラーを超える売れ行きだったっけ? 古本屋ではいくらくらいで買えるのだろうか。

最近の日本のコミックスは、世界で人気らしい。輸出産業の一役を担ってる?
歴史的事実から考察しても、独自の発展をした独自の文化と言って良いと思う。
ギャグやバイオレンスものも確かに、本国アメリカを凌いじゃってるし、特に小説とも言えるこれらストーリーものでは映画を超えた表現力を持ったとも言える。
それは確かに「お金になる」ことの経済効果だけでなく、新しい表現方法の高まりだと考えてみたい。
それぞれの作家(漫画家)の個性が如実に表現される世界で、その才能を発揮するのに手軽でやり甲斐のある商圏になったのかも知れない。

お薦め度:三度の飯より?星四つ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Friday, November 19, 2004

やりなおしのホームページ

やりなおしのホームページ:内藤淳之
明日香出版社:¥1,500+税

文学志向の方には申し訳ない。今回はホームページ作成のネタ本を紹介します。
世には掃いて捨てるほど仰山のハウツー本があるのは、店頭で眩暈のした人なら実感できるはず。
かく言うワタクシもPC関係の本をよく買ってしまいますが、10冊買って役に立った本はせいぜい1・2冊というテイタラクで、自責の塊になってしまいます。
いわゆる「当たり本」として、この本を薦めましょう。
副題が「誰も教えてくれなかった、ホームページを最適化するテクニック集」とあるように、中級者向けの内容ですが、書かれていることはHTML言語の基本中の基本、つまり最低限知っておくべきホームページの見せ方の常識です。なぜ、誰も教えてくれなかったんだろう?

タグ形式(いわゆるソース)でHP=ホームページが書けるようになると、文章と同じで簡潔に美しく、そして分かりやすく書きたいと思うようになります。その過程で、非常に端的に「こうすれば思い通りのレイアウトができる」というプチテクニックをA5サイズの180P程度で解説したこの本は実際とっても有り難かったです。
テーブル(表組み)やスタイルシートの基本。ネットスケープのプラウダやMACにも対応したタグの書き方。スペース用透明GIFの使い方とか為になるなぁ!
この本を理解すれば、ほとんどのソースが怖くなくなります。

正直に言いますと、僕自身はまだ「ホームページビルダー」のお世話になってる初心者です。完全タグ入力では、時間が掛かって仕方ない。市販のソフトで一度ソース化してから、部分手直ししている横着ものです。でも、基本が分かってるとレイアウトが崩れたときの対処方法がすぐに分かって助かります。たまに読み返すバイブルみたいな本になってます。

最近は、動きのあるHPが主流になってしまって、どんどんソースの複雑化が進んでます。フラッシュジャバスクリプト等はまさに、プログラム言語なので別の高価なソフトが必要です。お金を掛けずに、シンプルで趣味の良いHPもまだまだ現役であって欲しいものです。

個人のHPを持つ理由って何なんだろう? たまに人に訊かれてつい口籠もってしまうのは、利益主義的な感覚というより、趣味的な世界に近いからかも知れない。
なんか自分を表現したい、内に秘めた自分の感性を見つけたいと思うのは、誰にもあると思うのです。それが自己満足に終わったとしても、それはそれで結果論。別に構わないと割り切ったときに、我々は次のステップに進める、そんな気がして続けています。
文学を志す人も、ただ批評したい人も一度この情報発信方法にチャレンジしましょう。

お薦め度:人生をやりなおしたい人?にも星4っつ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

レッド・ドラゴン

レッド・ドラゴン〈決定版〉(上・下):トマス・ハリス
ハヤカワ文庫:小倉多加志 訳

実はあまり、映画になった小説は読まないのだが、活字中毒者の宿命として、貰った本も片っ端から読んでしまう。この文庫は、嫁さんの姉さん(僕より一学年上の小学校教員)が年に一度、間違いなく僕用にどっさり箱詰めで持ってきてくれたものだ。義姉夫婦も本格的な中毒者で、本当に助かってますと、この場で長年の感謝の言葉を贈ります。

さて、こいつは、かのハンニバル・レクター博士の3部作のエピソード1である。
流れ的には、この著作があって初めて名作「羊たちの沈黙」がブレイクし、エピローグとしての「ハンニバル」で完結するのですが、映画の制作発表も最後(2回目の制作?)になっちゃいました。それは、クラリス捜査官が出てこないからと言う、意外に正鵠な理由が在ったりしますけど……。
とにかく気持ちの悪い「サイコスリラー」の第一人者=トマス・ハリス。映画ほどは辛くないので、心臓の悪い人はハヤカワ文庫で是非、蘊蓄のひとつに!
知的でどこかカリスマ性のあるレクター博士の存在感は、どうも著者ハリスの中でも恐怖のイコン化して巨大化した感があります。その異常性の根はどこにあったのか? 結局答えは投げ出されてしまいますが、レッド・ドラゴンを読み解けば近代社会のゆがみと、中世から受け継がれた宗教観との混合化合物?かなと思ったりします。
多分これは、「セブン」(ブラピ主演)の印象が強すぎるからかな?
最近の犯罪心理学でいう「プロファイリング」の捜査手段ってのは、とにかく面白い。ひどく統計主義にも思えるけど、闇雲に歩く地道な刑事の仕事が、ITの最先端に変わって行くのは仕方のないこと? いつか自分たち一般人も、プロファイルされてるかと思うと「そら恐ろし」かったりするけど……。

映画通へのミニ情報。「ビハインド・ザ・マスク」というレクター博士シリーズ最新作が制作中らしい。これこそ博士の履歴書?といえる内容だとか。ちなみに僕は、劇場ではひとりで見れないビビリ人間です。

お薦め度:レクター博士ファンには間違いなく星4つ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Tuesday, November 16, 2004

風物語

風物語:阿刀田 高
講談社文庫

短編小説と言えば、「小僧の神様」の志賀直哉ですが、ここ最近の秀作で認められてるのが、向田邦子とこの阿刀田先生でしょうか。
短編ものの良さは、その余韻です。
梶井基次郎の「檸檬」が今でもあの薄っぺらな文庫本で店頭に並ぶ不思議?は、まさにその意味で傑作なんでしょう。
文章作法の最新原論?には、短編を熟読玩味しなさいと在った。
さっそく、ブックオフで短編物を数冊買い漁り、ワープロで打ち込む作業をしてみる。
向田邦子は会話が多くて、打ち込みにくい。佐藤正午は漢字を端折りすぎる感がある。
名文で比較すると、阿刀田先生に落ち着いた。自ら「短編の鬼」を目指した人らしく、見事な腕前であります。

とにかく器用な人ですよね。推理小説からギリシャ神話、恋愛物から青春物、最近は怪談ものまでと幅広い。しかも多作でも、はずれが少ない。マスコミにもよく登場するし、人格者で物腰も柔らか。小説家の鏡のような人です。

この「風物語」は街角の風景のような人々の心象スケッチの連作です。
12編の作品のほぼ全作が女性の鋭い感性を主題にした小編で、ぐっとくるオチを用意してある。SFで言えばショートショートな短編オチなんだろうが、純文学としては実験的なものだと思います。
よくネタが浮かぶなぁって思うほど、引き出しが多そうです。
結局、小説ってのは人間観察とシチュエーションにいかに対応したかに関わってるような気がします。その為には街角に立って聞き耳を立ててる小説家の努力が伺えます。
それにしても人生ってのは、うら寂しくて哀しい一瞬一瞬のつながりなんだとシミジミ思わされたりします。

お薦め度:40代を無事に過ごせそうな中年に星4っつ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Sunday, November 07, 2004

錯乱のニューヨーク

錯乱のニューヨーク:レム・コールハース
ちくま学芸文庫:鈴木圭介 訳

すごいお堅い本を一冊紹介。
コールハースと言えば今をときめくグローバルなオランダの建築家で、プラダの店舗や世界の主要な建築設計コンペで名を馳せる人です。日本の安藤忠雄並に、この人の作品や主義主張は建築界の注目を浴びていますし、現在を代表する建築家の第一線で活躍しています。
そんなコールハースも若かりし頃は仕事もなく、計画や論文の客員として食っていた貧しい?時代があります。「錯乱のニューヨーク」は1980年代の手前に発表された都市計画論です。
時代的には「ポストモダン勃興」の近代建築の解体期で、あまり読まれた様子はない。
最近になって彼の設計手法や斬新な思想がクローズアップされ、掘り出された休眠本であるが、内容的にはひどく難解ではあるが文学的で、ある意味ノスタルチックなマンハッタンの高層建築に対する蘊蓄と人間の飽くなき欲望の哀しき現実を語り尽くしている。
あんまり詳しく解説しても、建築関係者でないひとには寝耳に水?状態なので、簡潔に説明します。
現在の摩天楼と呼ばれるマンハッタン島が作られてゆく歴史は、大変意味深です。
コニーアイランドというテーマパーク建設を発端にして、アムステルダムを模倣して理想の都市をめざしたアメリカの情熱。エレベーターという機械が発明され、高層化を推進する。世界から建築家が夢を果たすために集まり、それぞれの計画案を提示しては敗れ去って行く。かの「コルビュジェ」にして然り。有名なロックフェラーセンターの詳細な計画の流れや国連ビルのコンペ案、セントラルパークの存在理由と枚挙にいとまのない、歴史の事実。
18世紀のアメリカは凄かったんだと感激します。

コールハースは他にも著作があります。実作家である前に、思想家として先に名をなしたひとなので文章家としても一級です。読み解くのは大変ですが、建築家が大きなビジョンを持って設計を進めるものだということだけでも分かって欲しいと思います。

お薦め度:建築を楽しみたいひとに星みっつと蔵書用カバー

| | コメント (0) | トラックバック (0)

封印再度(WHO INSIDE)

封印再度(WHO INSIDE):森博嗣
講談社ノベルス

博嗣と書いて「ひろし」と読むらしい。表題に副題と凝った書名に相応しい、造り込んだ感のある本格ミステリーである。
建築関係の大学教授がミステリーを書いてるらしいという噂は随分前に聞いていた。なかなか文庫本でお目にかかれないと思ったら、ノベルス物の常連ベストセラーだった。図書館のノベルスコーナーで探し出してホッとしてる。
小説現代別冊の「メフィスト」誌の第一回メフィスト賞というのも初耳だった。それが1995年、現在までに犀川・西之園ペアのシリーズだけでも10作と多作である。多分デビュー前から、相当プロットをストックしていたに「違いない!」。建築学科の教授が暇と思われるのは心外でもある。
実際、今どっぷり嵌ってて数冊抱えて読み込んでいる。

デビュー作にしてメフィスト賞受賞の「すべてがFになる(THE PERFECT INSIDER)」に始まる一連の密室殺人事件。工学系の学者らしい、衒学趣味的な思考の流れと軽い文体。建築関係の知識もちらほら小出しにして、その道の筋にも楽しませる余裕も見せる。なかなかの曲者です。途中かったるい思わせぶりの部分が気になるけど、著作枚数の必要悪と納得しましょう。
研究室とか最初から半密室状態のなかで起こる殺人事件は、反則気味であるし、ロケーションも悪くてTVドラマや映画にはなりにくい設定をあえて選んだのか、いわゆる本格推理の王道をひょうひょうと書き続ける姿勢に感激してしまう。
憎めない性格の犀川助教授と資産家の娘・西之園萌絵の色気とも奔放さともつかぬ軽さが、陰惨な殺人事件を明るくしてしまう。身近でこんなに頻繁に事件に遭遇したら堪らないし、いわば素人探偵があっさり情報を手に入れて解決してしまうという離れ業?も「王道」だったりします。
とにかく文章もうまいし、計算し尽くされたプロットに最後は「まいった」と言わしめる力量を味わうべし。
シリーズ物はできれば、順序よく読みたい物です。内田康夫の浅見シリーズとはすこし違った意味で嵌ってください。

お薦め度:お金の続く限り推理好きに星四つ。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

Wednesday, November 03, 2004

住まい方の演出

住まい方の演出:渡辺武信
中公新書

建築家としても文章家としても評価できるひとは、割と少ないものです。
歴代の有名どころの出版本の中には、写真集でよかっただろうってガッカリした記憶がある。
僕が建築学科の学生の頃、この渡辺さんは建築雑誌によく顔を出していた。何年も過去の話で、渡辺さんも65歳の齢を重ねていることも不思議ではない。当時のコンクリート住宅の無骨なほどの造型性と味気ないほどの素材感、その中でも柔らかな感性を漂わせていた建物を多く設計していた記憶がある。
実はその武信さんが、以前から著名な映画通でそういった関係の雑誌には(勿論、実名で)評論やエッセイを数多く執筆していたのを知ったのは、この本に出会えたつい最近のことだったりする。
お恥ずかしい限りです。

中公新書には建築家の著作が珍しく多いのですが、武信さんの本はシリーズになるほど読まれてるようです。
「住まい方の思想」「住まい方の実践」の一応3部作みたいですが、中では「演出」と銘打ったこの本をお薦めします。
ストーリーめいてて映画の書き割りのような構成を意識して書いています。とても専門的な内容なんですが、初心者の方が読み解くにも容易く、設計屋がいつも何を考えて図面を起こしてるのかとか、自分の生活の中で建築をどんな風に楽しもうとしているかが、丁寧に語られています。
楽しいのは、懐かしの映画の名場面のエピソードを散りばめて、とってもグローバルな生活観を展開していること。題目どおり、生活を演出して住宅も演出して楽しもうという姿勢が、好印象の一冊です。
驚く無かれ、武信さんには「詩集」という著作もあります。多分、本屋で目にしていても同一人物と判断できず見逃していたのでしょう。それにしても多才な人です。
なんかモダンでダンディな、オシャレな老紳士をそのまま絵にしたようなひとなんでしょうか?

建築時評としてはさすがに古いのは否めませんが、近代化の時代を生き抜いてきた先輩に「やはり、あなた達は凄かった!」と喝采を贈りたいと思います。

お薦め度:住宅を初心に戻って考えたい人に星4っつ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Monday, October 25, 2004

中原中也

中原中也:ダイソー文学シリーズ20
大創出版

別に奇を衒ってるつもりは更々ないのですが、いわゆる100円ショップの文庫本です。
夏目漱石から始まって詩人・伊藤左千夫まで手持ちの本の奥付けにだけでも、もう30冊発刊されてます。社長の西田さんが余程文学好きなのかと、微笑ましく思えます。
期待せずに広げた割に、というより予想以上の上出来な内容に感激してしまいます。
特に中原中也ものは、このところ改訂版もなく寂しくしてましたが、山口市の中也記念館の情報もあり、ちょこっとネタのコーナーが笑えたり、語句解説も丁寧です。(たまにこれは?も在りますが)
「山羊の歌」と「在りし日の歌」の(中也はこの二つしか出版本を残してません)ほぼ全編を収録、仮名遣いや漢字表記も読みやすくしていて、初心者にもわれわれ愛好者?の掌中にも最適です。
まったく得した気分にひたれます。
この愛すべき早世の詩人は、山口の素封家の家を飛び出し京都・東京と知人を頼りに文学を志す、あの大正時代当時の標準的な文学青年です。
童顔と無鉄砲さが同居した独特なパーソナリティに、同人は不思議な彼の感性に振り回されてしまいます。有名な小林秀雄と長谷川泰子との奇妙な三角関係や長男・文也の病死による躁鬱病の発症と話題の尽きぬ人生でした。生活にも文学にも疲れて故郷山口に帰るのですが、「在りし日の歌」発刊を前に30年あまりの人生を閉じます。
悲運の詩人というには、あまりに強烈な詩作と情熱の内に走り去ったひとで、そのリズム感や独自の感性の語句には、琴線に直接響く物が多いと思います。
「汚れっちまった悲しみ……。」の中也も良いですが、僕は帰京する直前の詩作「春日狂想」の「愛するものが死んだ時には、自殺しなきゃなりません。」からはじまる長い独白が好きです。

ではみなさん、
喜び過ぎず悲しみ過ぎず、
テムポ正しく、握手をしませう。

つまり、我等に欠けているものは、
実直なんぞと、心得まして。

ハイ、ではみなさん、ハイ、ご一緒に--
テムポ正しく、握手をしませう。

なんか飄々と生きて見たかった、中也の希望が満ちあふれてて、泣かせます。
詩作=人生の生活を想像してみることも叶わない現代に、若き詩人たちが命を賭してまで語り尽くせなかった文学という軌跡を辿ってみるのも、秋の夜長の役得です。

お薦め度・10月22日中也の命日に黙して、星四つ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Sunday, October 24, 2004

日本のフォーク私的大全

日本のフォーク私的大全:なぎら健壱
ちくま文庫

アポロキャップの変なオヤジ、なぎら健壱の会心の一冊である。プロフィールを読むと僕と年齢の差が思ったより無いのに愕然。昭和30年代後半から40年代を駆け抜けた同世代のはずなのに、なぎらさんはひどく活発で奔放な青春期を送ったようだ。

この本は、アングラ(メッセージ)フォークソングをこよなく愛するおじさんの年譜であり、交友録であり、自叙伝でもある。
なぎら健壱を初めて聞いたのは、確かチューニングの悪い文化放送の深夜番組での放送禁止歌の特集だった。有名な、お相撲さんのまわしが落ちてしまう件を長々と唱ったコミックソング「悲惨な戦い」が、伏せピー音だらけのライブ版で妙に笑いでざわついていた。
でも実際のお付き合い?は「葛飾にバッタを見た」の郷愁にあふれたメロディの方で、僕はほとんど数週間は、中学校の登下校に口ずさんでいた。間違いなく、思い出の一曲である。

なぜかNHKでのフォーク特集と言えば、なぎらとアルフィの坂崎になる。今でもBS放送で番組を持ってるらしいから立派だ。この番組ではじめてフォークシンガーだったの?ってひとも多いみたいだ。グッとメジャーになって僕も嬉しい。
「だから本が出版されて売れた?」というには反駁したくなるほど、この本はよく出来ています。
「高石ともや」から始まり「岡林信康」、「吉田拓郎」は勿論、暴れん坊「泉谷しげる」(当時は実際のところ大人しかったらしい)から「井上陽水」まで、フォーク全盛期を網羅した内容にワクワクする。裏事情も豊富だし、気の合わなかった連中はこき下ろしの「私的」というに相応しい、読んでて胸の空く文章でもある。

一番嬉しいのは、「高田渡」と「加川良」を最高!と評してくれてること。まさに感性には乾杯もの。復興版のCDが出れば、数万円出しても惜しくない名曲を残したこのふたり。今なお健在の音信を聞くたびに、ほくそ笑むのはその年代を生きて涙してきた人には分かるはず。その他にも文中に「古井戸」や「RCサクセション」の当時がうかがえて懐かしいどころか、タイムスリップしてしまってどんどん記憶が甦ってくる。
僕らは同級生の家に集まっては、兄貴のお古のフォークギターをチューニングも程ほどに、高田や加川をコピーしたり、ライブ版LPを掛け流して参加した気分になったり、好きな娘に詩の一部を贈ったりしたもんだ。恋愛してはLPを買い、失恋してはLPを聞きながら慰めあう。なんか暗いけど、感情に溢れた青春期だった。

1970年代とも称するフォーク全盛期。セピア色のLP盤の時代に帰れるわけではないけど、あのころの詩はいまでも胸に沁みる。

お薦め度:その時代の同志には星4っつとソノシートのおまけ

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Monday, October 18, 2004

白鳥の歌なんか聞こえない

白鳥の歌なんか聞こえない:庄司 薫
中公文庫

昭和40年代後半の僕の青春期を言葉で表すのなら、薫くんに語ってもらった方が早いと思うくらいに「気恥ずかしさ」と「無力感」に尽きる。

「赤ずきんちゃん気をつけて」での芥川賞は、その当時のベストセラー本の先駆になった記録的なセールスだった。その時点で「赤・白・黒・青」の4部作を想定、作家名自体が主人公という大胆さどおりに、すべて脱稿したあとは日常を記したエッセイを最後に筆を折る。多分それは当初からサリンジャーを意識した作家としての寿命を想定した生き方だったのか?

東大浪人生の短い春の数日を舞台に、一気加勢に読み進めさせる軽佻浮薄な文章は、当時の文壇の総攻撃を浴びたし、最近はロリコン趣味か?という感覚で流行らない作家の烙印を押された観もある。
ところがこの人には、20代前半にして本名?「福田章二」で新人賞を得た「喪失」という作品がある。この難解で晦渋な近寄りがたい東大生の文章から、10年後の変身なのである。意図的にものにした文体と考えた場合にも、薫ちゃん化したその時代を如実に再現してあまりある作品にケチをつけられる謂われは無いと思う。

「おどかしごっこ」と称するミニ知識ネタの掛け合いを主な会話とする暇な受験生の日常。その日常に突然ふりかかる事件?に対する若さ故の不安や嫌悪感。大人になること、大人との接し方を真剣に悩むところに、モラトリアムとしての大学生の先にある現実を見る。
そのまどろっこしい程の論理を薫ちゃん風の解釈で想い馳せるとき、これって青春なんだよなぁと懐かしくなる。訳も分からず悲しくなったり、腹が立ったりすることのひとつひとつに意味があることのように感じ入ってしまう、そんな純粋な時期を思いだしてしまう。
それが作者が目論んだ意図どおりだとしても、それなりに幸福になれるものだったりする。

4部作の中でも「白鳥」は、死による喪失感を扱ったシュールな内容で後味が尾を引きます。健気な薫くんに感情移入をしてしまいます。次作以降の「さよなら怪盗黒頭巾」「僕の大好きな青髭」でもその傾向は強くなり、もう最後はムンクの叫び状態の「これぞ青春!」となるわけです。いまでこそ一気に読み通せる4部作、老眼鏡のお世話にならない内に一読を!
ちなみに、薫くんの実生活の奥さんが、あの有名ピアニストの中村紘子さんです。薫くんは現在、髪結いの亭主なんでしょうかね?

お薦め度:年齢に応じて星四つ

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Sunday, October 17, 2004

ナイン・ストーリーズ

ナイン・ストーリーズ:J.D.サリンジャー
新潮文庫:野崎孝 訳

今時なぜ? のサリンジャー。読書の秋にうってつけの問題作だからです。
1950年代の小説が斯くも長く語り告げられる不思議を、自ら感得する良い機会です。
こういった秀作の翻訳には問題も多く、作品によっては原作に似ても似つかないものになる可能性がある。直訳の読みづらい訳本は、作品の質を棚上げしてしまうにし、自分本位の意訳は、本質にほど遠くなって後で恨みを買う。この新潮社の野崎訳は、その意味でもとても原作に忠実で読みやすいものに仕上がってます。娘にブックオフで買ってやりました。

この有名でそれが故に謎の多い作家は、誰彼の口の端に登るので、読んだことのない人も読んだ気持ちにさせる、そんな悲しい運命の作家かも知れない。
人気絶頂期?に筆を折り、穏当生活に入ったことでも神格化されるほど、サリンジャーの「青春小説」は、青年期の放り出されたような疎外感を生のまま見せつけて、「どうよ!」と苦笑したまま去ってしまう転校生みたいに、甘酸っぱい記憶を引きずってます。
ところが、サリンジャーに本当の意味で嵌ってしまうのは、30歳を過ぎた時期であったりします。実際に、小説よりもリアルな「グラース家の人々」の物語は、どこかで現在の家族の在り方を考えさせたりする、大人の時間なのかも知れない。
本当に指折り数えるくらいの作品しか残さなかったサリンジャーを惜しむ気持ちと、作家として生きる人生の選択を放棄したひとりの人格に納得できるのも、30歳を過ぎたあたりかと思います。

入門書としてはやはりこの「ナイン・ストーリーズ」。「バナナフィッシュ……。」から始まる9つの短編集は、20もの作品から作者自身が取捨しただけあって秀逸です。
どの作品にも大人びた子供たちが出てきますが、どちらかというと和み系です。
それはその後の「大工よ、屋根の梁を高く上げよ」や「フラニー・ゾーイ」に語りつがれてゆくグラース家の人々の名前がちょこっと出てきて、あとで読み返すことになります。
若くして自殺する長兄「シーモア」を伝説に、個性ある兄弟たちはそれぞれの人生を歩みますが、長兄の存在を重く担っています。まるでそれは作家自身の、暗い過去のようで……。
面白いことにサリンジャーには日本通の処があります。仏教にもひどく感心のあることが、ちりばめられてます。もしかして、穏当生活の最終地は日本ではないかと疑ってるのは、僕だけでは無いかも知れません。

「ライ麦畑……。」もいいけど、サリンジャーらしさを体得するためには、永遠のグラース家物語の初出演?になるこの本を薦めます。

お薦め度:星4っつとお香セット

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Tuesday, October 05, 2004

少年H

少年H:妹尾河童
講談社文庫(上・下)

舞台芸術家でエッセイストの河童さんが、初めて書いた小説が賞を取っちゃいました。精緻なイラストと旅行記の印象深い有名人だから、コスイと思って単行本は読んでません。文庫化されてもしばらく静観でしたが、ブックオフで百円棚に見つけてやっと購入。ところが、上下巻いっきに読んでしまって、コスイのは僕の方だったと反省。反戦文学であると共に、しょっぱい青春文学でもある想いのこもった自叙伝でした。
僕も建築屋のはしくれなので、デザインものはよく読みます。河童さんの舞台はやはり斬新の上に、どこか郷愁を感じさせるものがあってその手作り感が秀逸です。
この文庫の巻末にも解説者で顔を出す、井上ひさし御大にも共通する、箱庭趣味的な細かな技と粘っこさは、この年代の人たちの時代背景を映し出してあまりあるものかもしれない。

珍しくこの本の文にはすべてルビが振ってあります。昔の少年向け読み物を懐古してのことなのか、オシャレです。少年Hは本名「妹尾肇」だったっけ? 由来に興味のある人は実際に読んでみてください。太平洋戦争末期の神戸の街の妙な賑わい。多民族で多彩な文化がごちゃ混ぜの不思議な土地柄で、河童少年はのびのびとしています。文章に暗さがないのでつい読み過ごしてしまいますが、貧富の差や暗黙の差別が平気で口にされてた厳しい時代です。流されやすいひとは、急流に揉まれるように軍国主義に落ち込んで行くそんな時代です。
そんな中でも河童少年の目には、明るい将来が見えています。腹にズシンと来る生命観です。人間の逞しさを再認識します。
最近テレビで放送された「さとうきび畑……。」は、悲運な歴史を持つ沖縄の話なのでひどく悲惨でも他国の話のような気がしてなりません。神戸の空襲の事情が、阪神淡路大震災の実写映像と重なってこの小説を読むと身震いがします。戦争は何もかも一度失ってしまうもので、その空虚の中から人はまた生きることを選択します。
そう言った経験が人間にとっての必要悪とまでは言いませんが、自己矛盾に耐え忍んで再び立ち上がる勇気を内在することの意味は感じます。

広島の原爆記念日、終戦記念日を問わず、戦争の記憶は古びてもなお語り続けなければならない我々人としての主題なのかも知れません。

お薦め度:先人の不惑に感謝して、星4っつ

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Wednesday, September 29, 2004

笑う警官

笑う警官:マイ・シューヴァル/ペール・ヴァール
角川文庫 訳:高見浩

珍しいスウェーデンの夫婦共作作家ですが、旦那のペールさんが亡くなってしまってこの有名な「マルティン・ベック刑事」シリーズは続きが読めないのは残念です。
白夜のイメージそのままの北欧を舞台にした陰湿で血生臭い犯罪を、ベック刑事とその仲間が泥臭く追い込んで行きます。推理と言うよりサスペンス寄りの「87分署シリーズ」の北欧版って言えば早いかも知れない。
独特のプロットはお見事で、犯人側の視線でストーリーを組み立てたりする場面とか、突然この人は主役級じゃなかったの?って人物が殺されちゃいますし、良い意味で読者を裏切るそのテクニックが憎い。第1級の刑事もの小説です。
この「笑う警官」は映画化もされたらしいが残念ながら僕はまだ未経験です。あんまり期待もしていないのは、刑事物って地味だから「湾岸署」みたいなドタバタものでないかぎり映画は成功しそうにない。インディーズものならまだしも、興行には向かないかも。
妖しい題名なので、おちゃらけ小説と思う向きもあるでしょうが、見事にホラー系です。
心臓の弱い人や、夜ひとりでトイレに行けない人はお薦めできません。僕は当分、印象が強くて他のものが読めませんでした。
このシリーズは全部で5作くらいしかありません。一気に読破してみてください。
間違いなく嵌ります。本当に次回作が読めないのが残念。シューヴァルさんが他の人と共作した物がありますが、やはりベック刑事には勝てません。

お薦め度:星4つ

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Saturday, August 14, 2004

ハマボウフウの花や風

ハマボウフウの花や風:椎名 誠
文春文庫

そう言えば最近読まなくなったなぁ、椎名誠。一時期はどっぷり染まって、書く文章がすべて椎名口調?にまでなったこともあったのに……。今はテレビで観て、相変わらず頑張ってるなぁと懐かしむ方が多い。理由を考えると、単純に文庫の背が薄い?こと。なんか損をするような感覚? 思えばその程度の理由で読まなくなったとは、申し訳ない。シーナ・ワールドの奥深さを讃えて、その非礼に報います。

この「ハマボウフウ……」は、シーナの作風の中では純文学に属する短編集です。息子の成長を描いた「岳物語」を始め、私小説から創作への変遷のなかで、シーナが鉛筆の先を舐めながら、あのモジャモジャ頭をゴシゴシ掻きながらの格闘の末にものにしたこれらの作品には、木訥とした本人の深層心理に触れた思いで感動を隠せません。
少なくともこの短編集には、本人が映画化した「三匹のアヒル」や山田洋次監督に目をつけられた「倉庫作業員」などがあり、分量に似合わない意欲的な作品群です。
他にもこれに分類される「犬の系譜」「はるさきのへび」あたりも、ふっと息を抜いたあとの力技で書いたような意気込みを感じます。シーナの愛らしい特殊な面が見られますよ。

椎名と言えば、格闘技系ドタバタ旅行記や酒焼けの男くさい交遊記が浮かぶひとも多いでしょう。万年不良青年も、昭和19年うまれの今年「還暦」を迎える御歳です。想像を超えた若さです。すげぇー。
相変わらず軽妙なSF短編には、壊れちゃったかな?と思うような発想の抱腹ものが沢山あって、非常に楽しませてくれます。リズム感抜群の創作日本語も健在? 基本的に人を楽しませたい椎名さんの趣味が、嬉しいわけです。

年齢的に許せば、「アド・バード」に続く長編ものを期待するのは僕だけ?
本当のところ、シーナは世界でも十分通用する作家だと豪語できます。
こんなに器用でオタッキーで、愛される作家は少ない。
だれか、本気で商業ベースに乗せてくれ! そして大好きな映画を作らせてあげてください。

お薦め度:他の作品もまとめて、星4つ

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Saturday, July 31, 2004

ここに地終わり 海始まる

ここに地終わり海始まる(上・下):宮本輝
講談社文庫

なぜかこの作家には後ろ髪を引かれるような少女趣味の感覚で、感情移入してしまう。
宮本輝。「蛍川」で芥川賞受賞。その後、「道頓堀川」、「青が散る」などの純文学を極めた後、有名な「優駿」あたりからの長編のロマン文学に秀でて、現在も筆を休めぬ多作な人です。
やはりデビューは峻烈で、自叙伝とも言うべき告白体の関西弁の流暢な文体は、心を引きつけてラストシーンでは涙と感動の余韻で、一週間はホロホロでした。
関西という土壌が育む、人生の重みを「たかが人生」とうそぶく気概は、坂口安吾にも通じる大衆文芸の奥深さを内包しています。文体は谷崎潤一郎を彷彿させ、プロットは夫婦善哉の織田作之助の世界を併せ持つ、器用で情感あふれる作家です。
この作品は、他の長編もののなかでも特にプロットのはっきりした読みやすい物語です。純粋培養された少女が、長い闘病生活(ちょっと古い?)のあと、社会に適合して行く中で恋をすることで、最後はすこぶる魅力的な女性になって行くという通俗的なものながら、話のながれに引き込まれます。
現代のフェミニストの権化は、すこし理想の女性像を強要しすぎる傾向はありますが、昔、夏目漱石の描く女性像に憧れてしまった文学青年には、共有できる感覚です。
どうも最近の宮本文学は、主人公のそれも女性の奔放さに集約されるみたいです。でもその柔らかい感触が、癒し系の現代に受け入れられるのだろうと思います。

多分、これは隠れベストセラーなのでしょうが、あえて純文学への郷愁をこめて、ここに挙げます。宮本輝よ、がんばれ!

お薦め度:星みっつ

| | コメント (2) | トラックバック (0)

Thursday, July 22, 2004

華の下にて

内田康夫:華の下にて
講談社文庫

内田康夫氏の記念すべき100作目の長編推理小説であります。
『火サス』でも視聴率に困ったときの「浅見光彦シリーズ」みたいで大人気ですが、デビュー作「死者の木霊」あたりは、まだ光彦坊ちゃんの登場場面はありません。「信濃のコロンボ:竹村刑事」の地味な推理ものが基本の時期があります。ご当地伝説シリーズとして登場した光彦君は、あれよあれよと人気者になって確固たる地位を築きます。うだつの上がらないルポライターですが、名家の次男坊で生活には困らない。なぜか愛車「セリカ」に乗る清潔感のある佳い男らしい。いつも親父臭いゴルフ帽みたいなのを被ってる?年齢不詳の主人公。兄はいつの間にか「警視庁の刑事局長」という無茶な設定?(これは、水戸黄門の離れ業を故意に利用してる?)
さすがに100作目になると、主人公のまわりの設定に無理が出てくるのは「サザエさん」と同じで、浅見光彦の七不思議みたいな本も出回っているとか……。
そんな歳を取らない主人公たちを棚に上げて置いても、内田康夫先生の作品は多作にして破綻がない、「本格派推理もの」の王道をゆくものです。どの作品から読んでも、そのプロットと作中人物への情感あふれる思い入れに、納得の展開が期待できます。
伝説シリーズは特にその下調べに置いても、優れています。怨念、情念、どろどろ入り乱れての残忍な殺人が行われているに関わらず、光彦ちゃんの推理は明確でそして愛情にあふれた結末を用意してくれます。読後感の問題?って言うのでしょうか。

今回の「華の下にて」は、「文芸シリーズ」と唱った少し題名に奇を衒った?ような感じしか思えないけど、新シリーズの一冊です。華道界のおどろおどろした内幕を、ほんまかいな?状態で鋭く抉ります。康夫ちゃんには珍しく、女性が犯人像のストーリー、あれ?こんなあからさまな解説しても良いの? 犯人がだいたい分かっていても面白いのが、本格推理なのだそうです。新作はTVで早くからやってしまうから、観ているかもしれません。
ちなみに、最新作のTVでの光彦ちゃんは、配役的にちょっと不満。煮詰まってるかな? 水谷豊のときが一番良かったと個人的には思います。

それにしても推理小説ものは、文庫本になっても分厚いくらい長いですね。就寝前の読書習慣のわたくしには、その重さが苦痛なときがあります。ただ「グリーンマイル」のように極端な分冊は、通常の場合は鬱陶しいかも……。と言いながら、最近は長編も輪を掛けたような分厚いものを選んでしまうのも正直なところ。楽しみがすぐ終わってしまうのも寂しいし……。

お薦め度:星みっつ

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Friday, July 09, 2004

晩課

エド・マクベイン:挽課
ハヤカワ・ミステリー 訳:井上一夫

言わずと知れた「87分署シリーズ」である。市営の図書館にも多少の品揃え?があるハヤカワ新書、新書と言えばエド・マクベインと言うことになる。なんとこのシリーズは僕の生まれた1956から続いて、半世紀に渡るという「寅さん」もびっくりの刑事ものである。
その人気は何処にあるんだろうか。端的に言って「続き物」だからという要素が大きいと思う。キャレラ刑事を中軸に雑多な個性の87分署のキャラクターが、サザエさん並に鮮やかな人物像としてストーリーを動かして行く。感情移入なくして語れない世界だ。40作以上もあると全部読破したくなるのも仕方ないことだ。「サーガ物」ではないので、どこから読んでもそれなりに楽しめます。主人公もさして歳を取らないしね。
他にも刑事物の傑作はあるけど、マクベインの面白さは「プロット」の複雑さと明確さかな? たとえば「刑事コロンボ」のような謎解き要素はうすいけど、ぐいぐい話の奥行きに引き込まれて行く快感と、何度も失敗を重ねながらも着実に犯人に近づいて行くスリル感。何度読み返しても楽しめるのは、推敲を重ねた文章だからだと気付く。しかも毎回、趣向を凝らしたストーリー作りに気を遣っていてくれる。
だいたい2つ以上の犯罪?ストーリーが並列して進んで行くという構成は、この人が最初じゃなかったんだろうか。最近でこそテレビの湾岸署でも普通に使われてる手法だけど……。
あと、ハードボイルドの男臭さと、女性刑事のリアルな生活感、世情にも通じた多少猟奇的な犯罪ありのてんこ盛りサービスも見逃せない。
洋もの小説の難点は、名前を覚えられないことだが、さすがにこのシリーズの主人公たちは近所の知り合い並に覚えてしまった。それだけでも希少価値の刑事物です。

お薦め度:星みっつ

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Friday, July 02, 2004

ムーン・パレス

ポール・オースター 「ムーン・パレス」
新潮文庫 訳:柴田元幸

アメリカって変な国だなぁと思う。雑多な文学の分野で、特異な作家が存在する。多民族の多様な文化の混沌とした土壌が、開拓の荒野に記憶として存在したのか? なにより不思議なのはその才能は、他国?の人間に発掘されるという経緯が多いことだろう。
P・オースターの作家としても人生も、紆余曲折してたみたい。詩人であり戯曲家であった経歴も鳴かず飛ばずの作家志望の平凡な人生でしかない。
「ニューヨーク三部作」の突然の成功は、偶然の産物ではなく、哲学者・オースターの屈折した人生観の共鳴だったのだろうと思う。
それにしても、この「ムーン・パレス」は極上だった。
いつものように図書館の文庫コーナーの端に埋もれてた手頃な厚さの背表紙。探偵小説にも厭きた活字中毒者にとって格別の贅沢。当たり籤だった。
青春ものでもなく、恋愛ものでもなく、涙ほろほろでもないこの小説がどうして面白いのか? 都会の貸し室の唯一の窓から見下ろせる、キャバレー?ムーン・パレス。あくまで孤独な男が隠れ住む陰湿な空間から、現実のアメリカが見え隠れする。人生は後悔なのか、逃走し続ける青春の先にみえるものは、希望なのか?
突き放された孤独の縁に、ムーン・パレスは今夜も瞬く星のようである。

わかりにくい感想になってるなぁ。でもわかりにくい小説だから仕方ないか!
文章は秀逸。訳者も立派、二重丸。多分、原文はもっと抽象的だったはず。
売れっ子になったオースター、最近は映画化や脚本に嵌ってるらしい。
簡潔に言えば、シュール?でナイーブで格好いい作家だと思う。
敬愛するサリンジャーの一番近い後継者かも……。

お薦め度:星四つ

| | コメント (3) | トラックバック (0)

Friday, June 25, 2004

ジャンプ

IMG_4158.jpg

佐藤正午:ジャンプ
光文社文庫

今日は少し毛色を変えて、日本の純文学? それも私小説という分野を現在風にアレンジすればこうなるなかなぁと思う作風を健気に守り抜く作家、佐藤正午の紹介だ。
二十数年前の半年間の失業中に、初夏の図書館で読んだ「永遠の1/2」からの長いおつきあいになる僕にとっては、半生をシンクロさせたこの作家は、あまりにマイナーかも知れない。
デビュー作の「永遠の1/2」は映画になったので、すこしは記憶のある人もいるかも知れないがその後、パッとしない作家稼業を長崎は佐世保の田舎で、穏遁生活?を続けている地味な作家である。
その後の作品、「ビコーズ」「彼女について知っているすべて」とひねた?恋愛小説を標榜していても、どこか都会人になりきれない鈍くささに愛嬌を感じる。
多分本人は、現在のダンディズムを目標にしているのだろうが、どうしても大正ロマンくささとバンカラという言葉が漂ったりして、憎めない男なのだ。
なんか、作家自身を作中人物と混同してるような文章になっているかも知れないが、正午の作品を読んでいると誰もがそういう感覚になるに違いない。雑誌の取材で本人は、勿論「ノンフィクションはノンフィクション!」と否定しているが、僕が「私小説作家」と唯一呼べる珍重な作家は彼だけだと思う。
ところが最近の正午の作風が変わって来たらしい。前作の「Y」からこの「ジャンプ」は、ミステリー調を色濃く出した構成を前面に出してきている。山田太一の「飛び夢をしばらく……」などの新しい類型に足を踏み入れたのか……。しかも、それがまた売れてるらしいのだ。
マイナーなものを応援したがる側の人間として、ちょっと寂しい気もするが、偶には広島カープのように弱小球団の優勝もいいではないか!
正午の魅力はなにより、軽妙な会話の掛け合い部分だと思う。これは山田太一ドラマも舌を巻く筈の臨場感と選別された言葉の秀逸さに違いない。地の文も、ひとつひとつ紡ぐようなセンテンスの連続に、芥川の小品のような敬虔さも感じる。この人は生来の「小説家」なんだ。競輪好きの他に取り柄のない本物の不器用な「小説家」なんだと思う。
褒めてるのか、貶してるのか訳のわからない解説になりつつあるが、今はもう感情論で語ってます。ご了承を!

お薦め度:星四つとブックカバーのおまけ?

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Thursday, June 24, 2004

歳月のはしご

アン・タイラー:歳月のはしご
文春文庫 訳者:中野恵津子

海外物の純文学は出会いの機会が少ない。ヨーロッパ映画で取り上げられたか、村上春樹が訳者になったとかの話題性がないと書店に並ぶ機会さえない。僕の場合は、図書館の文庫コーナーを右の端から読み進めるという行動をとる活字中毒者特有の悪癖故に、偶然の掘り出しものに出会える恩恵を受ける。
最近特に感じることは、海外物の方が純文学性は高いのでは? 本来、お家芸のはずの日本文学は読者の質の低下もあってか、レベルが低くなったと思う。
実のところ、アン・タイラーはアメリカのベストセラー作家である。
僕が最初にであった作品「ここがホームシック・レストラン」は、秀作だった。田舎の居酒屋みたいなレストランに集う人物の描写が、ヒューマニズムにまみれてる。中編の作品でストーリーも淡々としたものだが、最後のページで泣いてしまった。
年齢的なものもあるんだけど、女流作家?の作品で初めて図らずも泣けた驚きは今でも何だったんだろう? と思う。
その後、「パッチワーク・プラネット」の頑固なアメリカのおばさんの独白を縫い合わせた作品を続けて読み、ついにこの「歳月のはしご」では、正式に本屋さんで久しぶりに購買してしまった。すごい嵌りようである。
内容は簡潔。いつものように海辺に散歩に出かけた主婦が、そのままバスに乗って蒸発?(古い言葉になっちゃったなぁ!)してしまう。悲惨な話じゃない。家族も普通に円満だし、蒸発した本人にも理由を掘り下げる程の詰めた思いもない。中年のおばさんがふと、知らない土地でひとり暮らしがしたくなっただけ? 考えれば、そら恐ろしい話だと、家庭を持つ親父は思う。でも何処かひとりの人間として同感できるところが、不思議な感覚だ。
エンディングもさして劇的でもなく、子供に見つかって連れ戻されるだけだけど、なんかホッとして、良かったじゃん。でも第2の人生も楽しめそうだったという断念を残して話が終わっちゃう。
これって、山田太一のテレビドラマみたい? 
とにかく、ついつい感情移入してしまう語り口とストーリーが、人生半ばの中年親父には堪らない小説です。

お薦め度:星四つ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Wednesday, June 23, 2004

小説作法

スティーブン・キング:小説作法
アーティストハウス、訳:池 央耿

何はともあれ、S・キングは凄い。マスコミに祭り上げられたベストセラー作家ではないところが凄い。今までの印税だけで一生、贅沢に暮らして行けるのに、扇情的に文章を書きまくるのも凄い。多作の割に当たりはずれのすくないのが凄い。
この「小説作法」は、キング自身の自叙伝に始まり、文章を書くことの覚悟?を力強く語り、最後は劇的な事件の顛末を告白、そして現在進行形のキングの思いの丈をしみじみと独白するストーリー形式の作家物語である。
キングの生き様を、まざまざと見せられて言葉を失うこと請け合いである。

「スタンド・バイミー」で、この人は純文学者?と勘ぐり、
「クジョー」には、小便も垂れ流しの恐怖を味わい、
「グリーン・マイル」や「ショーシャンク……」では、図らずも泣けてしまった。
「ザ・スタンド」の魔導師シリーズのライフワークにも恐れ入り、
この人の懐の広さに、胸が一杯になるのは僕だけでは無い筈。

結びの一言がまた泣かせる、味わうべし。
>人は誰でも文章を書くことができるし、また、書くべきである。一歩踏み出す勇気があれば、きっと書く。文章には不思議な力がある。あらゆる分野の芸術と同様、文章は命の水である。命の水に値段はない。飲み放題である。

お薦め度:星四つ+座右の書

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Tuesday, June 22, 2004

パートナー

ジョン・グリシャム:パートナー(上・下)
新潮文庫 訳者:白石 朗

法廷サスペンスもの、と言えばやっぱりアメリカ製なのかな? 懐かしい処で言えば、ヘンリー・フォンダ主演の「12人の怒れる男」。深夜の名画放送で観た白黒フィルムの緊張感が最高だった。確か僕は禁断?の中学生だったような。
グリシャムの名前を知らない人も、「評決のとき」や「法律事務所(これって邦題はザ・ファーム?)」のビデオは観たことがある筈だと思う。法廷ものでは、第一人者といっても大丈夫かも知れない。でも僕のお薦めは、原作。原作を先に読むと、映画はつまらなく感じる。けだし、トム・クールズのファンには申し訳ないけど……。
本業作家だからそりゃリアリティには定評ありだけど、グリシャムの独創性は「プロット」の途方なさ?か。「それもありか?」ってストーリーを、グイグイ強引に読み進めさせちゃう面白さがある。だいたい長いんだよ話が。まあS・キングの次くらいだけど……。
この「パートナー」あたりから作風が変わったとか? 推理サスペンス色が濃くなった感じ。とにかくカラッとした読後感で、長文も胃もたれがしない。悪く言えば、後を引く感動は望めないけど、次も読んでみたい誘惑を持たせる作家のひとりです。

お薦め度:星三つ

| | コメント (0) | トラックバック (0)