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十日間の不思議

Ellery 十日間の不思議(Ten Days' Wonder)
エラリイ・クイーン:著
ハヤカワ・ミステリー文庫 青田勝:訳

 アメリカはニューイングランド地方の架空の町=ライツヴィルは、クイーンお気に入りの事件の舞台です。初出は『災厄の町』、出版時期では本作の後になる『フォックス家の殺人』。その後も20年に渡って存在を主張したミステリー界では有名な町でもあります。

 時代は第2次世界大戦後、対戦前のパリで親しくなったハワードが、10年振りにエラリーのニューヨーク市マンハッタン西87番街のアパート最上階に突然現れる。19日間の記憶喪失と負傷した姿で、その上にハワードの実家のあるライツヴィルに来てくれと依頼される。クイーンにとって奇妙な翻弄される10日間が始まる。

 
 この作品の不思議さは、殺人が最後まで起きないことと登場人物の少なさで、一種舞台の心理劇の様相を呈しています。いつものクイーン刑事父さんも出番がありません。ライツヴィルの街の顔見知りは脇役で光ってますが、終始ヴァン・ホーン家のハワードを含む4人に語らせます。

 現代推理で言えば、本格モノの倒錯トリックの王道を貫いています。アナグラム(文字の並べ替え)や逆転トリックと最後まで緩まないロジックが明快です。
 勿論、ストーリー的には相変わらず「こんなヒトは実際居ないだろ」の架空世界ですが、読み物としては完成形。ダネイとリーの従兄弟作家が、脂の乗り切った時期の作品です。

 さてさてエラリー・クイーン(Ellery Queen)と言えば、バーナビー・ロス名義で、聾者の探偵ドルリー・レーンが活躍する4部作、XYZの悲劇シリーズでも有名。
 僕的には、探偵としての性格の明確なドルリー・レーンの方が好ましい。
 若き日のエラリーはどこか生意気で鼻持ちなら無いし、歳を負う毎に冷静さを売り物にしますが何処か人生に蓮っ葉で、性格的にお坊ちゃまで終わっています。
 アガサ・クリスティが創出した稀代の探偵、エルキュール・ポワロ(Hercule Poirot)やミス・マープル(Miss Jane Marple)の実直さに及ぶべきもありません。

 刑事物ではない探偵で言えば、G・K・チェスタートンのブラウン神父、ディクスン・カーのアンリ・バンコラン、ドロシー・L・セイヤーズのピーター・ウィムジイ卿などと海外ミステリーでは伝説のヒーローですが、なかなか存在感を発揮するのが難しいようです。
 日本の作家達の方が、探偵自身の性格描写は優れていると思います。金田一耕助も御手洗潔も犯人より際立って個性的です。

 そもそも私立探偵の活躍という設定自体に無理があるわけで、事件への介入を毎回巧みに工夫してるつもりが、日常的にトリック殺人が起こりうる理由も無い。そこは読み物として、又は水戸黄門さまのお約束事として軽く受け流す度量が、読者には必要なのです。

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