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無限の境界

Mugen 無限の境界
ロイス・マクマスター・ビジョルド
創元SF文庫 小木曽絢子:訳

 ロイス・マクマスター・ビジョルド Lois McMaster Bujold
1949年生まれ。1986年にデビューしたのち、わずか数年でヒューゴー賞、ネビュラ賞を次々と受賞、一躍その地位を確固たるものとする。身体的ハンデをものともせず、知略と大胆さで窮地に挑むマイルズ・ヴォルコシガンが人気を博し、SFならではの物語性を満喫させてくれる女流作家として、世界中で愛されている(らしい?)。

 スペース・オペラ物はこの世に沢山あれど、主人公=マイルズの容姿はあまりに特異であります。「大きすぎる頭、短すぎる首、背骨が曲がって盛り上がっている背中、砕けやすい骨のために何度も骨折して湾曲した足、人の目をひきつけずにはおかない、ぎらぎら光るクロミウムの補助具」 どう大目に見てもこれは「ノートルダムのせむし男」です。
 惑星バラヤーの貴族=ヴァルコシガン家の長子だが、バラヤー最高権力者だった父の暗殺に関わる毒ガス事件のとき、母親の胎内にいたと言う生まれながらの奇形児であります。しかし彼は、ヴァルコシガン家の高潔な志を受け継いだ正義感や機知と勇気を持つ、帝国軍の若き士官候補生なのです。

 この「無限の境界」では、特殊任務で負傷したマイルズが病床で、公金横領の嫌疑を晴らすために上司に説明をする回想風の短編3話の冒険譚です。
 ヴォルコシガン・シリーズの入門書として読み始めたのですが、ハマリマシタ。図らずも泣けます。「スター・ウォーズ」などの勧善懲悪明瞭解決系とは一線を画してします。
 第1話「喪の山」では、バラヤー惑星の近代化から取り残された山村を舞台に「嬰児殺人事件」のマイルズが名探偵を演じます。猫口(口唇裂)の畸形で生まれた子供を夫に殺されたと国主(マイルズの父)に訴え出た母親に、感情移入したマイルズは士官学校を卒業したばかり。数人のスタッフを従え現地に国主代理として赴くのですが、古い因習と偏見の村の人々は頑なで心をなかなか開いてくれません。バラヤー植民地計画で地球から5万人を入植したが計画は頓挫し、野生化した生態系と辛うじてバランスを保つ人類。わぉーなんか臨場感あるぞ。
 最後は「大岡越前」ぽい解決と采配に苦渋の決断をする若きマイルズ。自らの畸形を心中に治め、貧しい民衆と同じ目線で人生を味わう彼の純粋さに感涙します。
 第2話「迷宮」では一転、銀河の悪徳商人の国=ジャクソン統一惑星での、遺伝子売買をめぐるスペクタクル編。両性具有のベータ殖民惑星人や4本の腕をもつクァディーと言う遺伝子操作された人種が出てきて、名脇役を演じます。最後は生物実験での突然変異、怪力の狼娘ナイン=タウラとの脱出劇。悪徳商人の鼻を明かして、任務成功の大団円。タウラとの淡い恋心が泣かせます。
 第3話は表題作「無限の境界」。バラヤーの宿敵セタガンダ惑星の捕虜収容所に潜入操作に挑むマイルズ。巨大な透明ドームの中での殺戮や集団リンチ。囚人たちをまとめて大脱出への長い道のりを、自由傭兵艦隊の指揮者となったマイルズが変幻自在の活躍。囚人仲間たちとの友情と別離が、切々と泣かせます。

 主人公の容姿を「せむし男」にしちゃった勇気をすごいけど、身体不全の彼にマゾヒスティックにもハードなアクションもさせちゃう無茶にも平頭してしまいます。なんて大胆なSF小説でしょうか? ビジョルド女史も還暦に手の届く老齢ですが、まだまだ創作意欲を失ってほしくないものです。

 お勧め度:容姿端麗だけがヒーローではないことをお望みの穿った読者に星4っつ。

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