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神曲法廷

yamada神曲法廷
山田正紀
講談社ノベルス

SF作家として十分名声を得た作家が、本格ミステリーに殴り込みを掛けた構図らしい。基本的には実に器用な人なんだろう、明晰な構成と論理と人物描写がスムーズな川の流れのように最後まで破綻無く、最後の劇的トリックまで一気に読ませてしまう力量には、感服してしまう。

日本の法曹界を舞台に、謎の建築家が設計した「神宮ドーム」という架空の建築での訴訟問題から、不可解な殺人事件が始まる。主人公の佐伯神一郎は、鬱病から復帰したばかりの検事だが、妄想や神憑り的な言霊に苦悶する弱々しい奴である。上司の敏腕検事から、親友でもあるその建築家=藤堂を捜して欲しいと依頼されるが、一向に近づけないまま殺人事件の方にばかり関わってしまう。

主題になるダンテの「神曲」が、ストーリーの2重構造のように反復して、血のにおいと宗教的な暗さを深くさせる。

確かに良くできた小説に違いないが、これが本格推理だと言われると「火曜サスペンス」のシリーズものの様な辛さを感じてしまう。読み物としては秀逸かも知れないし、あっと言わせる結末も用意していてサービス精神も旺盛で許しちゃうけど、なんか物足りないなぁ。

僕の本格推理の原点は、クリスティやエラリー・クイーンにある。勿論、彼女や彼らの作品の中にも破綻したものが無いわけではないが、真摯に推理というものを追い求めた路の過程だと信じることができるし、茶目っ気がある。読者を楽しませるという最大の目的のために、あらゆる手腕や労苦を惜しまないし、トリックに対してストイックなまでに誠実である。

かといって、近年の推理小説がすべてクリスティの亜流では詰まらないのも解っている。建築の設計の世界でもポストモダンから、すべての設計手法を選択する方法しか残されない厳しい状況は始まっている。その中でも新人類と呼ばれる過去に縛られない怖さをしらない若者が現れる。それは個人の感性の世界だったりするけど……。

推理小説の世界を詳しく洞察したところで、自分好みの方向に変わってくれるとも思わないが、また新しい作家が新鮮な題材のストーリーを見せてくれるようにオープンな世界であって欲しいと願うばかりだ。

お奨め度:幻想の世界をダンテの神曲で塗り固めた構築的な意欲作に星3っつ。

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