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ハートブレイク・カフェ

lettsハートブレイク・カフェ
ビリー・レッツ 松本剛史:訳
文春文庫

Billie Lettsと言うアメリカの女流作家を覚えておいて欲しい。
ビート・オブ・ハート」で峻烈なデビューを飾った、老齢の大学教授。オクラホマ州のセコイアと言う田舎町を舞台にしたシリーズのもう一つ別の物語とも言える本編では、ベトナム戦争で傷ついた車椅子生活の30代のオーナーが営む小さなカフェを中心に、こころ暖まる人間模様が織り込まれて行く。
多分、人生のある時期に辛い出来事があったとして、豊かな感情の記憶を呼び覚ます小説家だからである。

偏屈な独り者ケイニーのカフェは、ほとんど開店休業状態で、ウェイトレス兼、身の回りの世話役の中年女性モリー・Oと二人で営んでいる。彼女は3人目の夫をガンで亡くし、一粒種の娘ブレンダは歌手を夢見て家出している。そこに現れる流れ者とも言える訳あり女性=ヴィーナが、店頭の客引きを始めることでカフェは突然の繁盛。ヴェトナムから無鉄砲に移住してきたのは良いが仕事も無く、オロオロと彷徨うブーイ・カーン
それぞれに不器用な人生を送ってきたが、このカフェで一緒に仕事をするうちに、迷い悩みながら悲しみも共有することで前向きな人生に目覚めて行く。なんかホームドラマっぽいけど、確実に涙腺のゆるむ小説である。

年齢の所為だけではなく、涙腺ゆるみっぱなしになる経験は沢山ある。
倉本聡のTVドラマの脚本集は、映像も思い出させてヒクヒク状態になるし、灰谷さんの先生ものもうるうるし始めると止まらなくなる。中原中也の詩集は、時々泣きたくなったときの常備薬だし、浜田省吾の歌もひとりドライブ中に聴くと涙で前が見えなくなってとても危ない。

以前アン・タイラーという女流作家を紹介したけど、作風として似通ったところがある。
悩めるアメリカの社会の一断面をリアルに切り取った日常、その中で強く生きようとする女性の感性。確かに、叙情に流される状況は否めないけど、どうにも頼りないのは男社会という結論なのか?

この小説での最大の涙腺ポイントは、ブーイ・カーンの誠実な生き方である。アメリカの底辺で虐げられた生活のなかでも、ささやかな夢を持ち続け、不器用ながら熱心に物事を積み重ねて、社会に受け入れられようと努力する誠実な姿勢。最後にグッとくる落ちがあって、応援した甲斐があったと思わせます。
基本的にハッピーエンド。アメリカ小説の鏡と言える内容です。

日本で言う「おしん」的な苦労話ではなく、もっと根深い社会批判も含めたヒューマニズムを、軽いユーモアに包み込んだ、一頃の山田太一的世界であります。

お奨め度:韓流ドラマにもそろそろ飽きてきた泣き好き主婦にも星4っつ。

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