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白鳥の歌なんか聞こえない

白鳥の歌なんか聞こえない:庄司 薫
中公文庫

昭和40年代後半の僕の青春期を言葉で表すのなら、薫くんに語ってもらった方が早いと思うくらいに「気恥ずかしさ」と「無力感」に尽きる。

「赤ずきんちゃん気をつけて」での芥川賞は、その当時のベストセラー本の先駆になった記録的なセールスだった。その時点で「赤・白・黒・青」の4部作を想定、作家名自体が主人公という大胆さどおりに、すべて脱稿したあとは日常を記したエッセイを最後に筆を折る。多分それは当初からサリンジャーを意識した作家としての寿命を想定した生き方だったのか?

東大浪人生の短い春の数日を舞台に、一気加勢に読み進めさせる軽佻浮薄な文章は、当時の文壇の総攻撃を浴びたし、最近はロリコン趣味か?という感覚で流行らない作家の烙印を押された観もある。
ところがこの人には、20代前半にして本名?「福田章二」で新人賞を得た「喪失」という作品がある。この難解で晦渋な近寄りがたい東大生の文章から、10年後の変身なのである。意図的にものにした文体と考えた場合にも、薫ちゃん化したその時代を如実に再現してあまりある作品にケチをつけられる謂われは無いと思う。

「おどかしごっこ」と称するミニ知識ネタの掛け合いを主な会話とする暇な受験生の日常。その日常に突然ふりかかる事件?に対する若さ故の不安や嫌悪感。大人になること、大人との接し方を真剣に悩むところに、モラトリアムとしての大学生の先にある現実を見る。
そのまどろっこしい程の論理を薫ちゃん風の解釈で想い馳せるとき、これって青春なんだよなぁと懐かしくなる。訳も分からず悲しくなったり、腹が立ったりすることのひとつひとつに意味があることのように感じ入ってしまう、そんな純粋な時期を思いだしてしまう。
それが作者が目論んだ意図どおりだとしても、それなりに幸福になれるものだったりする。

4部作の中でも「白鳥」は、死による喪失感を扱ったシュールな内容で後味が尾を引きます。健気な薫くんに感情移入をしてしまいます。次作以降の「さよなら怪盗黒頭巾」「僕の大好きな青髭」でもその傾向は強くなり、もう最後はムンクの叫び状態の「これぞ青春!」となるわけです。いまでこそ一気に読み通せる4部作、老眼鏡のお世話にならない内に一読を!
ちなみに、薫くんの実生活の奥さんが、あの有名ピアニストの中村紘子さんです。薫くんは現在、髪結いの亭主なんでしょうかね?

お薦め度:年齢に応じて星四つ

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