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少年H

少年H:妹尾河童
講談社文庫(上・下)

舞台芸術家でエッセイストの河童さんが、初めて書いた小説が賞を取っちゃいました。精緻なイラストと旅行記の印象深い有名人だから、コスイと思って単行本は読んでません。文庫化されてもしばらく静観でしたが、ブックオフで百円棚に見つけてやっと購入。ところが、上下巻いっきに読んでしまって、コスイのは僕の方だったと反省。反戦文学であると共に、しょっぱい青春文学でもある想いのこもった自叙伝でした。
僕も建築屋のはしくれなので、デザインものはよく読みます。河童さんの舞台はやはり斬新の上に、どこか郷愁を感じさせるものがあってその手作り感が秀逸です。
この文庫の巻末にも解説者で顔を出す、井上ひさし御大にも共通する、箱庭趣味的な細かな技と粘っこさは、この年代の人たちの時代背景を映し出してあまりあるものかもしれない。

珍しくこの本の文にはすべてルビが振ってあります。昔の少年向け読み物を懐古してのことなのか、オシャレです。少年Hは本名「妹尾肇」だったっけ? 由来に興味のある人は実際に読んでみてください。太平洋戦争末期の神戸の街の妙な賑わい。多民族で多彩な文化がごちゃ混ぜの不思議な土地柄で、河童少年はのびのびとしています。文章に暗さがないのでつい読み過ごしてしまいますが、貧富の差や暗黙の差別が平気で口にされてた厳しい時代です。流されやすいひとは、急流に揉まれるように軍国主義に落ち込んで行くそんな時代です。
そんな中でも河童少年の目には、明るい将来が見えています。腹にズシンと来る生命観です。人間の逞しさを再認識します。
最近テレビで放送された「さとうきび畑……。」は、悲運な歴史を持つ沖縄の話なのでひどく悲惨でも他国の話のような気がしてなりません。神戸の空襲の事情が、阪神淡路大震災の実写映像と重なってこの小説を読むと身震いがします。戦争は何もかも一度失ってしまうもので、その空虚の中から人はまた生きることを選択します。
そう言った経験が人間にとっての必要悪とまでは言いませんが、自己矛盾に耐え忍んで再び立ち上がる勇気を内在することの意味は感じます。

広島の原爆記念日、終戦記念日を問わず、戦争の記憶は古びてもなお語り続けなければならない我々人としての主題なのかも知れません。

お薦め度:先人の不惑に感謝して、星4っつ

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